「一級建築士」から「建築家」へ -資格を取得しても自信を持てない理由-

一級建築士という国家資格は、建築業界において最も権威のある資格の一つです。しかし、この資格を取得しても、実際の設計業務に自信が持てないという悩みを抱える建築士は少なくありません。なぜこのようなギャップが生じるのでしょうか。
「一級建築士を取得したのに、設計に自信が持てない」のは、試験制度と建築家として求められる能力との間にギャップがあるからです。このギャップを埋めるためには、創造性と技術を融合させる経験を積む必要があります。
アーキテクトとエンジニア:「建築士」に求められる二つの異なる役割(一級、二級とも)
建築家の仕事には大きく分けて、アーキテクト(デザイナー)としての側面と、エンジニアとしての側面があります。アーキテクトは空間構成や美しさ、機能性やコンセプト立案といった創造的な部分を担当し、エンジニアは構造計算や法規チェック、詳細図の作成や施工方法の確認といった技術的な部分を担当します。
ファッション業界でもデザイナー(美学や機能性、時代性、コンセプトを考慮して服をデザイン)と、パタンナー(そのデザインを実現するための、技術的な裏付けを担当)という職能がありますがそれと似ています。
建築士試験と設計実務とのギャップ(一級、二級とも)
一級建築士の試験内容は、そのほとんどがエンジニアとしての知識を問うものです。法規、構造力学、施工、設備などの技術的な知識が試験の中心となっており、デザイン力や空間構成力といったアーキテクトとしての能力を測る部分は限定的です。
製図試験においても、限られた時間内に課題をこなすことが求められます。そのため資格試験の勉強では本当の意味での「設計力」よりも、試験のテクニックや、指定された面積・構造・法規等をクリアする能力を身につけることに時間を費やすことになります。
つまり、一級建築士試験に合格したということは、主にエンジニアとしての基礎的な知識を持っている証明にはなりますが、建築家(意匠設計のプロフェッショナル)としての能力が担保されているわけではないのです。
「建築家」「建築士」の位置づけ:背景にある日本と欧米との違い
欧米では、アーキテクト(Architect)とエンジニア(Engineer)は明確に分かれた職種として認識されています。アーキテクトはデザインや計画を担当し、エンジニアはそれを実現するための技術を担当するという役割分担が確立しています。
一方、日本ではこの二つの役割が、「建築士」という一つの職種に統合されています(一級建築士、二級建築士ともに)。このため、建築士は両方の能力を求められますが、実際には試験制度がエンジニアリングに偏っているため、アーキテクトとしての能力開発がどうしても疎かになってしまうのです。
「一級建築士」から「建築家」へ移行するために必要なスキル
資格取得後に「自分の設計に自信が持てない」と感じる方は、意匠設計に関する実践的なトレーニングを積み、そのギャップを埋める必要があります。特に、以下のようなスキルを意識的に磨くことが重要です。
・クライアントの要望を丁寧にヒアリングし、独自の価値を提案できる力
・時代性や文化的背景を踏まえたデザイン力
・素材や光、色彩などを活かした空間構成力
・実現可能性と創造性のバランスを取る判断力
・自分のデザイン意図を的確に伝えるプレゼンテーション力
意匠設計に特化した、専門的なスタジオで学ぶメリット
デザインファーム建築設計スタジオが「経験者向け」に開講している「意匠設計力養成スタジオ」では、これらの実践的なスキルを学ぶことができます。法規や構造など既に習得している技術面を省略した「プランニング」だけのカリキュラムなので、仕事と併行しながらのスキルアップには効率的です。
特に実務経験の少ない建築士や、大手ゼネコン・設計事務所で定型的な業務に従事している方にとって、創造性を発揮する環境に触れることは非常に価値があります。第一線で活躍する建築家からの直接指導を通じて、設計の現場での生きた知識とスキルを学ぶことができます。
「一級建築士」から「建築家」へ、実践的な意匠設計力を養うために
建築士試験では「正解」のある問題が出題されますが、実際の設計業務では多様な解決策の中から最適なものを見つけ出す必要があります。
「建築家としての道を歩みたい!」と考えている方は、資格取得をゴールではなく、本当の意味での設計者(意匠設計のプロフェッショナル)になるためのスタートラインと捉え、さらなる自己研鑽に取り組むことが大切です。意匠設計力を高めるための専門的な学びの場で、あなたの創造性と技術力を次のステージへと引き上げてみませんか。
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