vol.7 建築家に必要な「設計のセンス」って何?
おそらく多くの人が「美的センス」や「生まれ持ったその道のセンス」を思い浮かべるのではないでしょうか。
建築で言えば、バランスの取れた造形美や多くの人が「かっこいい!素敵!」と感じる空間を生み出すこと、また普段からおしゃれな人にセンスがあるのでは?…と考える人もいるかもしれません。
もちろんそれも間違いではないのですが、建築設計においては必ずしもそれが正解とも言えないのです。では、建築家に必要な「設計のセンス」って一体何でしょう?
設計のセンスには種類がある
設計のセンスには「バランスをとるセンス」「造形のセンス」「出来事を生むセンス」の3つの種類がある、と私たちは考えています。
この3つの違いは「建築設計に大事な3要素」のどこを重視するか、どこを得意とするかで異なります。
【建築設計に大事な3要素】
1.機能的であること
まずは大前提として建物の「機能面」を満たす必要があります。
例えば、階段の高さや廊下の幅、窓の大きさや位置、手すりの高さ、テーブルの大きさや向きなど、建築を構成する要素が適切に出来ているか、きちんと機能するものになっているか、といった側面です。ここができていないと建物として機能しないだけでなく、時に怪我の元になったり最悪の場合は命を落としかねません。
2.空間の演出
建築には、かっこいい、美しい、見た目のデザインの良さといった視覚的な要素だけでなく、光や影や音まで計算された五感に訴える空間もあれば、素材の力で圧倒されるもの、多くの人の目を引きランドマークの役割を果たすものなど、人を魅了し感動させる要素がたくさんあります。その場所でどのように感じてほしいか、どのようにその土地やその場所に在ってほしいかなどを考慮して、造形的に空間を演出するのも設計者の仕事です。
3.生活の演出
人と人との繋がりや、日常を楽しく豊かにする工夫や仕掛けについても、建築で創ることができます。
窓の高さや位置を変えるだけで、椅子に座るのが心地いいのかそれとも床に座りたくなるのか、そんなちょっとしたことが変わってきます。また床の高さを一段上げて(下げて)みたり、天井の高さを高くする(逆に思い切って低くする)等の仕掛けによっても空間同士の繋がり方が変化し、それにより私たちは自然と動き方が変わったり居場所が変わったり、どちらを向いて会話するのが心地いいかといったことまで影響を受けるのです。
このように、出来事を意識して設計するのも1つの大事な要素になります。
こだわるところや大事にしたいところにセンスが表れる
この3つの要素に対して、例えば「3つのバランスを重視することこそ大事だ」と思う人には「バランスをとるセンス」があるし、「自分はカッコよさやビジュアルで勝負したい!」と考える人には「造形のセンス」があります。そして、人と人とのつながりを大事に考え日常の中に出来事を起こすような建築を創りたい人には「出来事を生むセンス」があるのです。
そしてここで一番お伝えしたいのは、3つの要素「全てを完全に満たすことだけが正解ではない」ということ。
「機能的」については満たす必要がありますが、「空間の演出」と「生活の演出」は、必ずしも両方を満たす必要はなく、片方がイマイチ、そこそこレベルであってもいいのです。
なぜなら、それぞれに共感する人がいるからです。実際に片方がイマイチ、そこそこでも、片方がとても魅力的であることで、住む人や利用する人から絶大な支持を得て感謝される建築や地元から愛され町の発展に貢献している建築は数多く存在しています。
センスは生まれつきではなく磨いていくもの
そして自分が得意な部分を自覚して設計に取り組むことでセンスはさらに磨かれていきます。自覚することでアンテナが立ち、それに関連する情報が外からたくさん集まってくるだけでなく、元々持っているセンスが内側からも引き出されていくからです。
ひとりひとりが自分の得意なセンスを見つけ、それを伸ばしていけばいいのです。どれかが正しいのではなく、どのセンスも人にとって素敵なものですよね。
「センスは生まれつきだと思っていたけど、磨いていけばいいんだ!」
これはかなり前にデザインファームを卒業したある人の言葉で、とても印象に残っています。
「建築の設計をしてみたい!」と思ったあなたなら、何らかのセンスが必ずあります。何に一番興味があって何が好きなのか、なぜやりたいと思ったのか、それらを大切にして磨きをかけていくことで、やがてあなたならではのセンスとなり、建築という形に反映されていくでしょう。
すでに持っているあなたの「センス」をぜひ大切にしてくださいね。