「建築っておもしろい!」今回は、ルネサンス期にイタリアで大活躍した芸術家、ミケランジェロ・ブオナローティーが残した建築について、校長の牧野先生に語っていただきました!
今回は少し長くなるので、2回に分けてお届けします!
ミケランジェロと聞いてピンとこなかった方でも、この彫刻の写真は一度は見たことがあるのではないかと思います。
ミケランジェロは、彫刻をはじめ、絵画や詩人としても天才的な才能を発揮して、たくさんの作品を残してきました。
余談ですが、当時はミケランジェロだけでなく、レオナルド・ダヴィンチや少し後に活躍したジャン・ロレンツォ・ベルニーニなど、マルチな才能で活躍した天才芸術家がたくさんいたんですよね。一人ひとりの生涯を追ってみると、天才ならではの苦悩や生い立ちが違ったりして、それも結構面白かったりします。
さて、建築家としてもその才能を存分に発揮したミケランジェロ。
キリスト教カトリック教会の総本山、バチカン市国の「サン・ピエトロ大聖堂のクーポラ(天蓋)」もミケランジェロの後期の作品です。当時、絶大な権威を持っていた教会、しかもその中でも最大の権力を持った教会の設計に白羽の矢が立ったミケランジェロ。それだけすごい建築家だったということがわかります。
そんなミケランジェロが手がけた建築の中に「ラウレンツィアーナ図書館」という、教会の中に作られた図書館があります。
この図書館は、イタリアのフィレンツェにあるサン・ロレンツォ教会に付属していて、今も時々見学することができるそうです。(牧野先生はフィレンツェに何度も訪れていますが、行くたびに見学のルールが変わっていて現在はどうなっているか分からないそう…。イタリアらしいといえばイタリアらしい。)
この図書館は、サン・ロレンツォ教会で修行するお坊さんたちのための図書館として作られたものだそうで、一般の人が入るような場所ではなかったそうです。当時は書籍そのものがかなり貴重なもので、今でいうと本1冊で家が建つくらい高価なものだったという説もあります。
そんな貴重な書籍が保管された図書館。お坊さんたちが一生懸命神事の勉強をする場所として、ミケランジェロはこの図書館を設計をしました。
この「ラウレンツィアーナ図書館」を何度か訪れている牧野先生。
この図書館の「ある空間」について、何年もかけて考えていたことがあったそうで…。それが、今の時代の建築を作っていく上でもとても重要な要素になると考えています。
教会の中庭と本堂の間から2階へ上がり、回廊にある扉を開けると、高い天井の吹き抜けと美しい形状の階段がある「階段室」にたどり着きます。この階段をさらに上ると図書館にたどり着くという、いわば前室なのですが、この階段室こそが牧野先生が長年考察してきた「ある場所」なんです。
先ほど天井が高いと言ったのですが、この階段室は3層構造になっています。2層目にある柱がまた存在感があってかっこいい。
このように2本並んでいる柱を「カップルド・コラム」といって、多分ミケランジェロが初めて設計したんじゃないかな、と推測しています。その柱の下で荷重をしっかりと支えているブラケット。このあたりも律儀にデザインするところがミケランジェロらしいです。
でもちょっと待ってください。
そもそも柱というのは地面か床に接地していて、上の構造を支えるものですよね。「ここは2本並んでしかも浮いている。変なの。」 というのが初めて訪れた時の感想だったそうです。
確かに、本来の柱の役割を考えてみたらなんだかおかしい…。
また、この前室の階段は、上から下へまるで水の波紋が流れるようで美しいとか、溶岩が流れるようだとか、いろんな本に書いてあって、その通り見事な造形をしています。
しかし設計している人ならプロでも学生でも、階段は下から上に考えるもの。「どうのぼらせるか」を考えるものです。
例えば、上の方に「こっちにおいで」と目標をデザインするとか、途中の変化を楽しませるとか。階段は設計者の腕の見せ所なんです。
ところがここは「上から下へ」デザインされている。向きが違うんです。
ミケランジェロは絶対的な彫刻家でした。
「建築は本業ではないもんね。柱は浮いているし、階段は降りる向きにできているし、やっぱり変なの。」
牧野先生の初めてのフィレンツェ、初めてのラウレンツィアーナ図書館の感想はやっぱり「変なの」でした。
でもやっぱり気になって何度も行くんです。
何か意図が隠れているんじゃないかって。
そして3度目だったか、ついに牧野先生は腑に落ちる答えにたどり着きました。
…ちょっと長くなってしまったので、続きは次回に。
どんな答えにたどり着いたか皆さんも考えてみてくださいね。
お楽しみに!
(文・田中いづみ)