数ある公共建築の中でも図書館はもっとも身近な施設です。
劇場や博物館も公共建築ですが、図書館は入館料を払う必要がありません。
そして好きな本や雑誌を眺めながら何時間でも過ごすことができます。
反面、図書館はしゃべっているとしかられる場所であり携帯電話も使えない場所です。
ただ単調に書棚がズラッと並んだだけの室内も、何となく退屈だったり威圧感があったりします。
公共性が高くニーズも多いのにもったいないなあと感じることも少なくありません。
一方、楽しくて親しみやすくて何時間でもいたくなるような、普通と少し違う図書館にも
今まで何度か出会ってきました。
今回はそれらの中からいくつかを選んで体験授業で紹介してみました。
I.M.ペイの設計によるサンフランシスコ市立図書館は、
10階建てに近い大きな図書館ですが、驚くほど変化に富んだ魅力的な内部空間を持っています。
吹き抜けやトップライト (天窓) をふんだんに用いて、いろいろな場所を見上げたり
見下ろしたり見渡したり見通したりができる、立体感の豊かな 「視線の遊園地」 のような図書館です。
本を見るのも楽しいけれど、本を見ている人々を見るのもまた、けっこう楽しいものだと初めて知りました。
この図書館はまた、かつてデザインファームが海外合宿で訪れた場所でもあります。
世界最大の設計事務所SOMは、イエール大学のベイネッケ稀観本図書館で実に大胆な試みを見せてくれました。
名前のとおり稀少価値を持った本ばかりを集めた特殊な図書館ですが、ここでは数フロアに積み上げられた書庫が
ガラス張りの巨大なショーケースに入って、圧倒的な存在感でその姿を見せてくれます。
書物が何段にもわたってズラッと並んでいる重厚な迫力には新鮮な驚きを感じました。
アメリカ・シアトルの市立図書館は、レム・コールハースの斬新な設計で大変有名ですが、
同市に立つマグノリア地区分館もまた、アメリカ北西部の近代建築様式 「ノースウエスト・スタイル」 を
代表する名作建築です。設計はノースウエスト・スタイルと言えばこの人、ポール・ヘイデン・カークです。
木造平屋建ての小さな小さな図書館ですが、高い天井から豊かな光が降り注ぐ明るい建築です。
図書館では本の日焼けを防いだり書架スペースの確保のため、普通あまり窓はたくさん設けませんが、
この図書館では思い切って大きな開口部を至るところに設けて、住宅街を取り巻く豊かな木々や緑と空を
たくさん見せてくれます。そして頭上の木造の美しい架構を大胆なほど低い位置に設けて、
この小さな図書空間をより親しみやすいスケールに整えています。架構と開口部の配置の美しさと絶妙の
プロポーションからは、日本の伝統建築の影響を色濃く読み取ることができます。
実は僕はこのマグノリア図書館が一番好きなんです。
小さい図書館ですし、こっそりスーツケースに入れて持ち帰って、デザインファームの付属図書館にしてしまいたいくらいです。
図書館建築には楽しい作品、豊かな作品がまだまだたくさんあります。
機会を見て授業でもどんどん紹介して行きたいと思います。
(水沼 均)