12月2日土曜日、体験授業の報告です。
フランク・ロイド・ライトの作品の魅力を短い時間でどうやって伝えるか、今回の体験授業の
準備ではおおいに考えさせられました。ライトの作品は普段の授業では数週間に渡って、
だいたい6時間から8時間くらいかけてスライドを見せて紹介しています。だがそれでも
まだライト建築のエッセンスはなかなかすべてを伝え切れるものではありません。
そこで今回は、ライト作品の優しさと人間味を作り出している空間的な特徴にスポットを
当てて語ってみることにしました。
それはもっぱら、ライトの作品に特有の空間の流れ方に顕著に見られると思います。
ライト作品の独特な空間の流れ方は、当時主流であったボザール的な平面形偏重の建築
にはない新しい魅力を人々にもたらしました。そして建築を、社会思想や体制を象徴する
存在から解き放って、よりヒューマンな地平へと還元して行ったのです。ライト作品の人間味は、
こんなところに起因しているのではないかと考えました。
ライト建築のこうした特徴は、特に中期のプレイリー・スタイルの住宅に顕著に見られます。
水平方向のドラマチックな空間の流れが大きな魅力です。
しかし一方でライトは、空間に縦方向の流れを与えて演出することもしばしば試み、
幾多の名作を生み出しました。
ジョンソンワックス本社ビルやラーキン本社ビル、マリン群庁舎などです。
そこで今回の体験授業では、水平方向と縦方向の空間の流れを対比的に捉えることで
ライト作品をより立体的に語ってみようと考えました。そしてさらにこの直行する二つの流れが、
最晩年のグッゲンハイム美術館で見事に統合されて行くことに気がつきました。
この個性的な美術館では途切れることのない、シームレスでエンドレスな長い長い水平の流れが、
マンハッタンのあの高密度な敷地で見事に作り出されています。それは中央の明るい吹き抜け
空間を螺旋状に幾重にも取り囲む斜路という姿で実現されました。
高密度都市の中でライトは、限りなく長い水平空間を縦方向に立体的に展開することに成功したのです。
こうした流れを考え、今回はあえて3作品に絞ってライトを語ってみました。
落水荘、ジョンソンワックス本社ビル、そしてグッゲンハイム美術館です。
ライトをわずか30分で語るなんて我ながら無茶なテーマを選んだわいと一時は思ったけれど、
授業を終えてみたら、何か一本の強い糸を発見したようなうれしい気持ちになりました。
ご参加いただいたみなさんにも、ライト作品を楽しむ良き入り口になってくれていたら何よりの幸いです。
(水沼 均)