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『「ベルニーニ」: 21世紀の今だからこそ見える、本当のベルニーニ』(体験授業レポート)

2014年12月23日、デザインファームにて開催された体験授業
『 「ベルニーニ」 : 21世紀の今だからこそ見える、本当のベルニーニ 』が行われました。

レクチャラーは校長の牧野先生。年末の、しかもクリスマス・イヴ・イヴ!
という微妙な日にもかかわらず、多くの方々が参加して下さいました。
ありがとうございました。

ブログを読んで下さっている皆さんのなかには
「そもそもベルニーニって何ですか? 人の名前っぽいけど・・・。」
という方もたくさんいらっしゃいますよね。

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ (1598 – 1680) は、バロック期を代表するイタリアの芸術家です。

彫刻家、建築家、画家として、また戯曲を書き、演出もするという桁外れの才能をもって大活躍しました。
『 ベルニーニはローマの為に生まれ、ローマはベルニーニの為に創られた 』
という言葉が残されるほど、膨大な量の彫刻、建築の仕事をローマ中で目にすることができます。

バチカンの 「サン・ピエトロ広場」 、ナヴォーナ広場にある 「四大河の泉」 など、代表作を挙げるにも大変な数になるので、是非みなさん検索してみてください。ざっくざく出てきますよ!

さてレクチャーは、200枚を超える写真とともに繰り広げられ(ベルニーニの作品を中心としたローマの美術観光案内。という、まったくベルニーニのことをご存じない方にも楽しめる形式を用いながら)とても興味深い、そしてかなり噛みごたえのあるものになりました。

なぜ今、この21世紀にベルニーニなのか?

ベルニーニが生きた時代の西ヨーロッパの時代背景として、16世紀前半から始まったマルチン・ルターによる宗教改革側 (ローマ教皇庁は我々から金銭的搾取をしている! もう言いなりにはならないぞ! というグループ。教義の改革、修道院の廃止などを進めました。いわゆるプロテスタントですね) と、その動きに対するカトリック(ローマ教皇庁) の対抗宗教改革側 (このままプロテスタントの勢力が広まってはマズいぞ! 我々も自己改革し、教皇の権威を回復しつつ、民衆がより魅力を感じる教会にならなくては! というグループ) というキリスト教内における二大勢力が、せめぎ合っている大きな構図がありました。
そして、カトリック改革陣営の急進的一派であるイエズス会 (日本人にはフランシスコ・ザビエルでおなじみですね) が生み育てたのが、いわゆるバロック建築なのです。ローマにおける対抗宗教改革のプロパガンダとして。
時のローマ教皇に気に入られ、後の教皇には疎まれるというなかで、ベルニーニは一貫してイエズス会に支えられて創作活動を続けました。彼自身、晩年にはイエズス会に属していたとも言われています。

こういった生々しい歴史を背負っているバロック建築は、その前の時代のルネッサンス建築と比べて長い間評価が低く(素晴らしいルネッサンス文化が堕落して異形なもの、グロテスクになったものをバロック 〈歪んだ真珠〉 と呼びました) 再評価されるようになったのもごく最近の話なのです。

バロック建築が担うべき最大の目的は、「一般の民衆に対してカトリックの素晴らしさをアピールすること」 、そして 「彼らを敬虔な信者としてカトリックに繋ぎ止めて帰依させる」 ということです。神の栄光を讃え、神への捧げものとしての建築から、人々をカトリックへの信仰を確信させる(物語に参加させる)場、装置としての建築へ、という変化。つまり建築そのもの (モノ) よりも、その建築が人々に与える効果 (コトがら、できゴト) が重要視されたということです。

バロック時代の芸術家たちの多くは、自らが創り出した芸術は、作品 (モノ) が鑑賞者の感情をドラマチックに動かすことを通じて、彼らがその作品世界に参加すること (コトがら・できゴト)によって完成、完結する。というコンセプトを持っていたと言っていいと思います。

なかでも、ベルニーニの作品にはそれが鮮明に表れているのです。
彫刻作品の多くでは、物理的には静止しているにも関わらず、次ぎの動作を想像してしまうような運動性があり、まるで演劇やオペラを観ているかのように鑑賞者は作品世界に感情移入していきます。(ちなみに 「オペラ」 という芸術形式もバロック時代に生みだされました)
建築作品においては、その場に集う人々が単なる鑑賞者、使用者の立場にとどまらず、舞台上の役者のように見られる立場、また建築空間を構成する一要素でもあることが意識され、人々のアクティヴィティ (コトがら、できゴト) がいかに演劇性、祝祭性、エンターテインメント性に富んだドラマになるのか? ということが考えられて空間が作られています。徹底的に 「ヒト」 の目線に立っているんですね。

「モノ」から「コト」への価値観の変化。

この大きな価値観の変化が、バロック時代と私たちが生きている現代との両方に通底していることなのです。

18世紀後半の産業革命以降、一貫して「モノ」の生産量は増え続け、近代過渡期を通じて社会は「モノ」を大量に生産、消費をするようになります。人々の価値観は 「モノ」 を所有すること(しかもより多くの!) が豊かである、幸せであるというものでした。しかし、多くの人々に 「モノ」 が行き渡り、しかも社会が 「モノ」 であふれ、大量のゴミとしても存在する事態になると、どうも人々を豊かにするのは「モノ」 そのものでは無いのでは? ということが分かってきました。
こうして近代成熟期に入ると、人々はただ 「モノ」 を所有する、使うことを欲するのではなく 「モノ」 が紡ぎだす物語、出来事、コミュニケーションという 「コト」 に価値を見いだし、そこに豊かさや満足を感じるようになりました。ブランド品をまとい、生産者の顔が見える農産物を求め、環境に良い製品を選び、社会貢献している企業の製品を、フェアトレード商品を・・・。といった具合に。
さらに日本では、東日本大震災の経験が「絆」、「繋がり」 、「コミュニティ」 といった人間関係が大切であり、豊かさであり、幸せである。つまり私たちの人生にとって、「コト」 こそが大切なんだ、という価値観へ人々を大きく動かしたと思います。

「モノ」から「コト」への価値観のシフトをもたらした要因は、もちろんバロック時代と現代とでは全く違います。またバロック時代においては、建築・庭園・美術・音楽・演劇といった芸術の世界でのことでしたし、その価値観を共有した人々も、極限られた範囲でした。
しかし現代では、要因は違うにせよ、社会全体の大きな価値観の変化としてより多くの人々に共有されるようになりました。それは私たちの日々の経済行為を左右するまでに浸透しているのです。

そんな私たちは、バロック時代の芸術家によって行われたさまざまな試みが、より広い分野で現代社会にインパクトを与えるものとして受け止められる時代。そして、ベルニーニの創作姿勢がとても現代的に感じられる時代を生きているのではないでしょうか?

実は 「モノ」 から 「コト」 へ。というのは、デザインファームが大切にしているコンセプトなのです! 設計課題では、その場に集う人々が、いかに豊かな物語を生きれるか? という 「出来事」 が重視され、徹底的に 「ヒト」 の目線で設計することが要求されます。

「モノ」 としての建築ではなく、豊かな 「出来事」、「物語」 が生まれる場、としての建築。

そんなことを考えながら、学生たちは日々、設計課題に向き合っています!

21世紀の今、もう一度バロックをそしてベルニーニを見直すことは、いまの時代の社会の風を感じているアーキテクト、デザイナーにとって、とても参考になると思います。

皆さんもこの様な視点から、バロック芸術に是非触れてみて下さい。とても面白く、興味深い世界が広がっていますから。

体験授業『「ベルニーニ」: 21世紀の今だからこそ見える、本当のベルニーニ』が、またいつ開催されるかは未定なのですが、開催された際には是非、皆さん参加してみて下さい!

(非常勤講師:石塚 正之)