「建築」
興味はあるけれど、小難しいと感じている方も少なくないのではないでしょうか。なんだかロジカルで頭の良い人だけがわかる世界、みたいな。
私もそう思っていました。
けれど、建築家養成所・デザインファーム建築設計スタジオの教室では、「建築ってこんなにおもしろいものなの?!」とワクワクするような話がそこら中で繰り広げられています。
こんなおもしろい話、教室の中に留めておくのはもったいない!
ということで、「建築っておもしろい!」と思えるようなエピソードや、講師の考察などをシリーズ連載でお届けしていこうと思います。
さて、記念すべき連載第1回目は、デザインファームの代表で名物講師、牧野先生の考察から。
デザインファーム建築設計スタジオは、未来の建築家を育てる学校です。
校長の牧野は、常に時代の変化や人の価値観の変化を分析し、新しい時代で活躍する設計者になるためには何を学ぶべきかを考えながらカリキュラムを練っています。
そして、その分析が絶妙におもしろい!
いろいろな切り口でみなさんにお伝えしていきたいのですが、今回のテーマは「新しい時代の建築」。
元号も平成から令和にかわり、個人的にも様々な場面で新たな時代がやってくる予感がしています。
時代の流れや人の価値観の変化とともに、建築のあり方も変わっていくもの。
だって、建築を使うのは私たち「人」。建築の主役は人なんですから。
建築の歴史は今、変わろうとしている?!
牧野先生の考察によると、いま建築の世界は「過渡期」に入っているのではないか、ということらしいのです。過渡期というのは、これまでの様式がかわる、評価される視点が変わる、転換期ということ。
2019年の日本。
私たちを取り巻く建築は、そのほとんどが明治以降、西洋から持ち込まれた建築の考え方がベースとなってできています。公共建築しかり、住宅しかり、です。
例えば、チラシなどでもよく見る家の間取り図。これは「平面図」というのですが、このように真上から家の間取りを考えるのは、実は石で造られる西洋建築の考え方なんです。
石で造られる建築は、「壁」ありきで考えられます。ですから、壁の位置がわかる真上から間取りを考えるのです。
木造建築が主の日本では、木をフレームのようにして組み立てる構法を昔からとってきました。
蒸し暑い夏を快適に過ごすために風通しを考慮した建築は、日本だけではなく同じような気候の東アジアでよくみられます。
フレームで作られた建築は開放的です。部屋の仕切りを「壁」でバツっと切るという概念はなく、床の高さを変えてみたり、外部とも内部とも言えない縁側というような場所で場を繋いだり、とても曖昧だけれど感覚的に仕切る、という方法で空間を作ってきました。
これはとてもアジア的・日本的な概念で、このような建築空間の中で過ごしてきた私たちは、真上からではなく、人の目線で空間を捉えるようになりました。
ところが、明治維新で西洋文化が持ち込まれたこと、そして戦争よってアメリカの文化に影響を受けたことによっていつの間にか西洋の「壁」建築の価値観に私たちは身を置くことになっていったのです。
図面と言われて真っ先に「平面図」を思い浮かべるのがその証拠。
けれど、元々気候も暮らし方も宗教観も違う文化でできてきた価値観を、まるまるっと受け入れるのはなかなか難しいものです。
西洋への憧れや対等に扱われたいという欲求から、形は西洋を真似たものの、やはりそれまで築いてきたものを全て捨てることができず、無理が生じて、日本の住宅はとても閉鎖的なものになっていってしまいました。
しかし今、その価値観がまた変わりつつあるというのです。
例えば、一般の住宅でも縁側を彷彿とさせるウッドデッキが好まれたり、オープンカフェが流行っていたり、と開放的な本来の日本建築の特徴が徐々に取り戻されているのではないか、ということなのです。
確かに、言われてみればそのような場所をよく目にするし、自分自身もそういった空間を体験すると素直に気持ちが良いと感じます。
世界でも、日本や東アジアに見られるフレーム建築がもたらす空間構成に流れが向いてきているようです。
いま、価値観は西洋からアジアに移行している、とマキノ先生は考察しています。
日本人の持つ感性が生かされる時が来たのかもしれません。
とは言ってもまだまだ過渡期。
現在活躍している建築家たちも、時代の変化を捉えながら模索している時代です。
過渡期だからこそ、私たちが作っていくことができるチャンスの時代でもあるのかなとも思います。ちょっとワクワクしちゃいますね。
このマキノ先生の考察から派生するお話が山ほどあるので、それはまた次の機会に。
皆さんもぜひ新しい時代の建築について考えてみてください。
(文・田中いづみ)