先日講演会をしてくださった建築家の手嶋保さんから、白井晟一が設計した 「虚白庵」 の見学会がありますよ、
というお知らせをいただき、25日行ってきました。皆さんもご存じとは思いますが、
白井晟一(1905-1983)は昭和時期の日本を代表する建築家の一人。
丹下健三とも比較されるなど、巨匠クラスの建築家です。
東京にある代表的な作品としては、渋谷にある松濤美術館や赤坂にあるノアビルですね。
今回私たちが訪れた 「虚白庵」 は、彼の自邸です。
中野区にあります。新江古田の駅前、背の高い石塀に囲まれ、うっそうと木が生い茂った一角、そこが 「虚白庵」 。
この日はその石塀の前に何十人もの人が並んでいるのが目に飛び込んできました。
なんでもこの 「虚白庵」 、解体されることが決まっており、最後に一目見ておこうと、たくさんの人がこの日
集まったようです。
それでは、見学した建物を少しご紹介しましょう。
建物はRC造の平屋建て。建物延床面積が約240m2。そして敷地面積490m2。
つまり、敷地の半分が建物、残り半分が外構という、かなりゆったりとした計画となっています。
今から40年前、1970年に竣工されました。
玄関へアプローチ部分。
外壁は現場塗り石突き仕上げ。荒削りされた石壁のような仕上げです。扉はスチール。
力をかけやすいように中央に取手がついていて、がっしりとした作りです。けれど、石壁の圧倒的な量感に
挟まれると、そんなスチール扉もなんだか柔らかく、小さく楚々とした印象です。
ここは書斎内部です。
暗くそして濃密な空間。壁は少し起毛した布地貼りと硬く色の濃いブラジリアンローズウッド板張り、床は絨毯。
天井は布地貼り。この部屋の中で光はほとんど反射しません。
むしろ、光も色も音さえも、みんな建物に吸収されてしまいます。見学会なので、一度に20人ぐらいの人が
建物の中にいるのですが、人の存在さえ吸収してしまいます。不思議な空間です。外部とは時間の流れ方が
まったく異なるのです。
お寺とか、教会とかそんな場所を想像した方が近いです。考える場所としては良いのかもしれません。
こちらは居間・食堂。
部屋に入る光を見つけて、ほっとします。
きっとこのメリハリが、白井晟一の 「考える空間」 と 「生活する空間」 の差なんだろうな、と思いました。
ただ、普段明るいところでの生活に慣れた人にとっては、どちらも非常に暗い空間です。
いつもは見学会があると皆さんにお知らせするのですが、今回は、直前に知ったので皆さんにお伝えする事も
かなわず、せめて学校に居合わせた学生さんたちにだけでも見せてあげたかったので、たまたま学校に来た人に
声をかけ、数人で出かけることになりました。見学を終えて出てくると 「なんだか別世界って感じ」 「異空間」
そんな感想が漏れていました。
敷地は目白通り沿いにあるのですが、そんな大通りの喧噪など寄せ付けません。車どころか、あらゆる外の世界を
寄せ付けないほどの硬い殻で覆われた、一人の人間の内なる世界、暗闇と言ってもいいような空間でした。
普段考える 「人とコミュニケーションをとる空間」 とは対極にあるものだと思います。
興味のある方は 「住宅建築」 (2010年1月号) が白井晟一の特集号となっていますので、
是非ご覧になってください。
(木戸 彩子)