3月14日(日)デザインファーム主催の講演会 「建築家 手嶋保さんと建築を語る夕べ」 が
本校2階の教室で行われました。
当日にはゲストコメンテイターとして、デザインファーム講師日比生寛史先生も参加。
こんな贅沢な顔合わせの講演会に、会場である2階の教室には大勢の在校生や卒業生の方々が詰めかけました。
手嶋さんが主宰される手嶋保建築事務所では歴代のデザインファーム卒業生数名がスタッフとして働いていて、
デザインファームにとっても親しみのある事務所なんです。
手嶋さんが手がけられた作品は建築専門誌などの書籍で広く発表されており、学生さんが住宅設計をするときの
参考資料としてそのページは何度もめくられてきました。何度もめくられたその理由には、そこに人を魅了する
風景があるからです。今までそこに誰かがいたような、手嶋作品からはそんな風景が見えてくるのです。
それはいったいなぜなのでしょう。
今回、手嶋さんが用意してくださったスライドは、まず生まれ故郷の福岡の写真から始まりました。
緑豊かな山々に囲まれた、古い民家のほの暗い世界。雑草で覆い尽くされた古民家。そういう古い家に育った
手嶋さんは幼い頃、自分の家が嫌で、人に訪ねられるとわざと違う家を指さすほど、家に対するコンプレックスが
あったそうです。しかしその後、東京で暮らし、仕事をするようになった手嶋さんは、実はそんな風景がご自身の
原風景であったことに気づかれたそうです。そんなまなざしで写された故郷の写真から、スライドは鉄道線路の
写真、お寺の屋根や柱、庭の写真と遷り、波に削り出された岩肌、そして、くぐもった灰色の空など、建物の写真
から自然の写真まで、淡々とスクリーンに映し出されていきます。
そして、ふと気がついたときには作品のスライドが始まっていました。
こんな風に書くとなにやら物静かな講演会かと思われますが、そうではありません。日比生先生の絶妙なコメン
トと質問で、会場の人たちは話にぐいぐい引き込まれていきます。そして九州男児2人※の漫談的なやりとりに
会場で笑いが起こることもしばしば。(※手嶋さん、日比生先生、お二人とも福岡県のご出身です。)
作品スライドでは、初期の建物から今に至るまで、そのとき折々の仕事へ臨むご自身の考えや、風景を生みだす
絶妙な段差ができた過程について、元スタッフとの会話を織り交ぜながら、楽しく語ってくださいました。
お話を伺っているうちに、手嶋さんが手がける建物は理論やテクニックからではなく、ひたすらそこに住まう人を見つめ、
その建物が建つ土地と語らうことで、じんわりと生まれてきた、私にはそんな風に思えてなりませんでした。
講演会の後は、恒例の懇親会です。はじめは遠慮がちだった学生さんたちですが、ほどよくお酒も回ってくると、
どんどん手嶋さんに近づいていき、ポトフォリオを見てもらうなんてラッキーな人もいました。
こんな風に直接お話できる機会はめったにありませんからね。絶好のチャンスです。
今後手嶋流のデザインを取り入れようとする生徒さんが増えるのは確実です。でも、よいものは盗み取る、
実はこれはいい勉強方法なのだと思います。
最後に、この日遅くまでおつきあいしてくださり、学生の質問に丁寧に答えてくださった手嶋さん、
本当にありがとうございました。手嶋さんから直接お話を聞けた学生さんたちは本当に幸せだったと思います。
また何かの機会がありましたら、是非お話をお聞かせください。