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【建築家のための戦略&マーケティング vol.9】

9. 本当の競合は誰?

「ええっ?そこと比較されたの?」と思うような相手が“競合”だった・・・いったいなぜそんなことがおきるのでしょうか? “理想のお客さま(ターゲット)”は自分と“競合”の何を見ているのでしょうか?そして自分の“競合”とは、いったい誰なのでしょうか?

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◆実例紹介
◎日高屋の競合は?

【7.伝わらなければ意味がない! 効果的なメッセージとは?その2】で実例として取り上げた「日高屋」の競合について考えてみましょう。

「日高屋」は首都圏を中心にチェーン展開している飲食店です。その名前に「熱烈中華食堂 日高屋」とあるように中華料理店ですが、だからといって“競合”は必ずしも中華料理店やラーメン屋ではありません。

日高屋の“理想のお客さま(ターゲット)”は、安く手早く食事を済ませたいビジネスマンです。なので、同じニーズを持つ人がよく行くマクドナルドや吉野家の近くに敢えて出店する戦略をとっています。そうすることで立地調査を省くことができ、その分を価格に還元できると、以前社長(だったかな?)がテレビ番組で話していたのを覚えています。

つまり、「安く手早く食事を済ませたい」というニーズを持つターゲットをめぐって、中華料理店とハンバーガーショップと牛丼屋が競合しているわけです。
だからこそ、ターゲットに伝わりやすいメッセージとして「ハンバーガー、牛丼、明日は日高屋!」とストレートに訴求しています。 いくら好きでもさすがに毎日ハンバーガーでは飽きてしまいます。だから明日は日高屋に来てね、というわけです。

《参照》
日高屋 http://hidakaya.hiday.co.jp/ (別ウィンドウが開きます)

◆実例紹介
◎マクドナルドの競合は?

では、対する「マクドナルド」の競合はどこでしょうか?
ハンバーガーショップだからモスバーガーやロッテリア?・・・もはやそんなわけない、ということがわかりますよね。ここでも“理想のお客さま(ターゲット)”のニーズが重要なポイントです。

「安く手早く食事を済ませたい」というニーズなら、“競合”はラーメン屋、牛丼屋の他、立ち食いそばやコンビニ弁当など。
「外回りの営業の途中でちょっと休憩したい」というニーズなら、“競合”はファーストフード店やカフェなど。
「休日に家族で気軽に食事を楽しみたい」というニーズなら、“競合”はファミレスや回転寿司、さらに宅配ピザも入るかも知れません。

だから「マクドナルド」は、家族で利用してもらうためにハッピーセット(おもちゃ付きセット)を充実させたり、ビジネスマンに休憩してもらうために『マックカフェ』と銘打ってコーヒーに力を入れ電源やネット環境を整えるなど、ターゲットのニーズに合わせて様々な工夫をしています。

◆実例紹介
◎女子高生は放課後どこへ?

そして、その「マクドナルド」から最近女子高生が流れているのが、大手回転寿司チェーンの「くら寿司」や「スシロー」です。
放課後に回転寿司?と意外に思うかも知れませんが、彼女たちのニーズを考えればそれも当然の流れ。「放課後は友達とゆっくりガールズトークや試験勉強。でもお小遣いはやりくりしなきゃ。」となると、客単価の高いところには行けません。

そこで、一皿ずつ好きなものだけチョイスできる回転寿司チェーンなんですね。しかもボックス席はファミレス並にゆったりしていてくつろげるし、夕食前の時間帯だから空いているし、最近はデザートやポテトなども充実しているから、女子高生にはいいことずくめ。「マクドナルド」「サイゼリヤ」と並んで『黄金ローテーション』というのもうなずけます。

このように“競合”は、業種業態を越えてお客さまの“選択肢”として表れます。
“競合”とは、“ターゲット”が自分のニーズを満たそうとしているときに頭に浮かぶ“他の選択肢”のことです。
ですから“競合”はお客さまの頭の中にあります。同業他社とは限らないし、まして売り手側が決めるものではありません。

そこで“競合”ではなく自分を選んでもらうためには、“誰”に“何”を訴求するのかがとても重要になるんですね。
「マクドナルド」だったら、家族向けには「スシロー」にはないおもちゃをアピールし、給料日前のビジネスマンには安さを訴求し「スターバックス」ではなく「マック」を選んでもらう。しかしビジネスマンでも一服したい人には、安さではなく喫煙席をアピールする必要があります。
「スシロー」だったら、女子高生には「スイーツだけでもスシローへ。」と寿司屋とは思えない広告もやってのけるし、家族向けにはおじいちゃんおばあちゃんも一緒に座れる広いボックス席とメニューの豊富さをアピールするでしょう。

《参照》
くら寿司 
スシロー http://www.akindo-sushiro.co.jp/(別ウィンドウが開きます)

さて、では建築家にとっての“競合”は?
それはいつも名前が挙がる“あの建築家”かもしれないし、全く作風の違う“あの建築家”かもしれない。
「できれば建築家にお願いしたいけど、うちにはちょっと・・・」とためらっている人なら“ハウスメーカー”かもしれないし、駅前の“新築マンション”かもしれません。
あるいは“このまま建て直さないで暮らす”という考え方かもしれないし、高齢の方なら“売り払って有料老人ホームに入る”ことかもしれません。それらはすべてターゲットの頭の中にあるんです。

いつも名前が挙がる“建築家A”が競合なら、“建築家A”にはなくあなたにある“強み”をストレートに訴求しましょう。
“建築家B”が競合なら、“建築家B”は持っていないけどあなたは持っている“強み”を。

“ハウスメーカー”と比較している人には、家族にぴったりと沿ったオーダーメイドの心地良さや一緒に創っていくプロセスもアピールポイントになります。
“有料老人ホーム”と迷っている人には、今までの住み慣れた土地で暮らす安心感や地域の一員としての暮らし方が老後の人生にどんな活力をもたらしてくれるか等もアピールするといいですね。

「建築家に頼むのならあなたにお願いするつもり、でも“このまま建て直さないで暮らす”のもあり」という人には、一部をリフォームするだけでもこんなに生活が変わりますと、未来の豊かな暮らしをイメージしてもらってはいかがでしょうか。

すべてはニーズ次第なんですね。あなたの“理想のお客さま(ターゲット)”のニーズは何でしょうか?アンケートではお客さまは何とおっしゃっていたでしょうか?

“ハウスメーカー”も新築マンションの“デベロッパー”も有料老人ホーム等の“介護ビジネス”も、マーケティングが得意で戦略的に動いています。あなたのところに依頼しようと思っていた人が流れているかも知れません。そう考えると、もったいない気がしませんか?

もしかして他の建築家のことばかり気になっていないでしょうか。
“理想のお客さま(ターゲット)”は何を望んでいるのか、誰(何)と比較し迷っているのか、真のニーズとは何なのか、お客さまを中心に自分と“競合”を見比べて考えることで、きっとヒントが見つかるはずです。

(牧野めぐみ)

【参考】
◎「経営戦略立案シナリオ」 -かんき出版-
◎小笠原昭治の マーケティング&ストローク 2014/01/27号
◎日経MJ(流通新聞) 2014/04/07号