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体験授業 「女性建築家ジュリア・モーガン」

11月15日、学校説明会のあとに体験授業を行いました。30分間程度の時間を使って、ふだん行っている講義の一端を体験していただくという試みです。今夜は僕にとって今年度初めて担当する体験授業でした。
限られた時間で一つのテーマを語る。そしてそのテーマには、デザインファームで日頃僕らが大切にしていることが少しでも多く反映されてほしい。そんな条件の中で僕が選んだテーマは、建築家ジュリア・モーガンの作品をスライドで紹介することでした。

モーガンは20世紀初頭にアメリカ・カリフォルニア州で活躍した女性建築家です。古典様式や中世の様式、そしてカリフォルニア独特の土着的なコロニアル・スタイルを下敷きとしつつ、独自のエレガントな個性を駆使して数多くの名作を残しました。
20世紀初頭と言えば、アメリカでも多くのモダニズム建築が台頭し始めた時期です。鉄とガラスのスマートでシャープな建築、そして四角くて真っ白な抽象美あふれるコンクリートの建築。そうした新しい時代の流れの中にあって、モーガンは頑なに古き良き様式性と土着性、そして自らの個性的な造形を貫き通しました。

モーガンの建築作品を一言で言い表すと、隅々まで優しいヒューマンな空間と表現できると思います。規模の大きな建築でも、常に洗練された、けれども人に馴染みやすいスケールでモーガンは空間を作りました。そして特に空間の「流れ」を作り出すことに傑出した建築家だったように思います。
部屋から部屋へと巡り歩くときのドラマチックな変化とワクワクするような期待感。庭に出ても階段を上っても吹き抜けを見上げても、そして振り返っても、そこには常にモーガンがていねいに演出したドラマが必ず人を待ち受けていてくれます。

そうしたモーガンの「流れ」の魅力は、主に空間のスケールの対比と光の演出によって作り出されているように思います。薄暗くて狭い空間は常に、その後に訪れる広くて明るい空間への予兆として置かれます。空間は時に広く狭く、高く低く、姿を自在に変えながら人々を誘います。そしてそこに降り注ぐ光も、一面の天窓に照らされた外のような明るい空間であったり、あるいは闇の中に一筋の光だけが射し込むドラマチックな空間であったりします。建築空間が持ち得るあらゆる魅力を、モーガンは豊かな感性を駆使して表現し続けました。

しかし、こうした魅力的な手法をふんだんに用いながらモーガンが目指したものは、最終的には人間への優しさであったと思います。この建物を訪れてよかった、またぜひ来たい。この建物にいるといつも優しく抱擁されているような心地良さがある。人々がそんな想いを胸にしながら帰路についてくれる、そんな光景をモーガンは何よりも大切にしたのではないかなと思うのです。体験授業のテーマにモーガン作品を選んだのは正解でした。なぜならこうしたモーガンの建築に対する姿勢は、まさにそのまま僕たちがデザインファームで目指しているものに他ならないからです。

気がついたら40分間も語ってしまいました。けれどもこんなにすてきな建築の話なら、それこそ4時間だって語り続けたいくらいです。
(水沼 均)