デザインファームトップ > ブログ・建築家への道 > 体験授業 「黒川紀章って、どんな建築家?」

体験授業 「黒川紀章って、どんな建築家?」

11月25日の体験授業の報告です。

大女優さんとの結婚や選挙への立候補などお茶の間を賑わす話題の多かった建築家黒川紀章ですが、

建築家としての紀章はまた、国際的な名声を得た偉大な力量の持ち主でもありました。

紀章の建築家としての魅力は大規模な美術館・博物館や空港はもとより、むしろ

高密度で雑多な市街地に計画された中規模な建築に実によく表れているのではないかと思います。

今回の体験授業ではこうした都市型建築の作例を中心に紹介しながら、

建築家黒川紀章の魅力をじっくりと考えてみました。

紀章は設計家であると同時に大変精力的な著述家・思想家でもありました。そして著作の中で紀章は一貫して、都市と建築との関係や人間と建築との関係を論考し続けました。「メタボリズム」 や「共生」 「中間領域」 といった馴染みの深いキーワードも紀章が着目し普及させた考え方です。

こうした紀章の考え方は、とかく派手な彼の風評とは裏腹にいつも非常に人間味溢れた親しみ易く優しいものでした。例えば私たちの暮らす日本の雑多な都市風景は、「道」 が中心となった賑わいある場として積極的に位置づけられ、そして日本人に固有の曖昧さも積極的な善き両義性として肯定的に位置づけられています。

そしてこうした著作での論考は彼の実際の建築作品の中に常に忠実に再現されてきました。紀章は自身の建築作品を通じて、日本の都市や建築にすでに宿されている魅力的な固有性を訴え続けたのです。

 

a0092994_16165668.jpg   a0092994_16173698.jpg

東京の高田馬場の駅前にビッグボックスという大きな建物がドンと立っています。窓もほとんどなく極彩色で塗られたその姿は一見異様ですが、足元をよく見るとトンネルのように大きな軒下空間が口を開けて人々を出迎えています。待ち合わせや雨宿りのためにそこには常に多くの人たちがたたずんでいます。あわただしい街中にあって一瞬足を止めて身を寄せることのできる場所が、そこには提供されているのです。

a0092994_16354638.jpg

こうした試みは九州・福岡銀行本店でさらに大きな吹きさらし空間としてより明快に実践されています。都市銀行の本店という硬派な用途の建物であるにも関わらず、その軒下空間にはたくさんのベンチや池、そして緑が豊かに置かれて、道行く人たちに縁側のような開かれた場を提供しています。
また東京・青山の商業施設ベル・コモンズでは紀章が「中間領域」と命名した半外部空間が、建物と青山通りを柔らかくつなぎ止めています。

a0092994_16365911.jpg   a0092994_16372339.jpg

街中で道行く人々に対する紀章の建築作品でのこうした優しさは、他の大規模な作品に比べると日頃話題になる機会があまり多くはなかったように感じられます。しかし後学の私たちにとっては、これらは彼が残してくれた貴重な都市遺産の一つなのではないかと強く思うのです。

体験授業の限られた時間で何とか彼のこんな優しい側面を語ってみようと思いました。
130枚というたくさんのスライド写真を用いて紀章の作品10点を紹介したので、少し話が急ぎ足になりはしまいかと心配でしたが、もしも貴重な何かを語ることができていたとすれば大変な幸せです。

日曜日にもかかわらずお越し下さり最後まで熱心にお聴き下さったみなさん、本当にどうもありがとうございました。僕にとっても都市の建築を考える良い機会になった一日でした。
(水沼 均)