コラム「建築家のための戦略&マーケティング」

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vol3. なぜ“理想のお客さま(ターゲット)”を絞らなくちゃいけないの?絞ったら減ってしまうんじゃ・・・? の落とし穴

「“自分の強み”を一番理解してくれる“理想のお客さま(ターゲット)”は、きっとこんな人だ!」
来てほしいお客さま像が描けたら、その人が気に入りそうな写真を選んだり、プロフィール の詳細を書き替えたり、ブログのカテゴリも追加してみようかな?差し上げるポトフォリオも作り直そうか・・・。あれこれアイデアを考えているうちに、ふと不安にかられる瞬間があります。

「こんなに絞って、本当に大丈夫?」
「この人(理想のお客さま)が、もし来なかったらどうしよう?」
「ただでさえ建築家に頼む人って少ないのに、絞ったらますます減ってしまうんじゃ?」


一度不安を感じ始めると、その不安はどんどん強くなっていき、“理想のお客さま(ターゲット)”を絞るということ自体がこわくなります。そして「やっぱり今まで通りでいいか。」と、誰にでも好まれそうな無難な写真を選び、誰もが安心できそうなプロフィールを書き、誰が読んでも納得しそうな文章と抽象的なキャッチコピーの設計コンセプト。

特に減点のない、誰が見ても「うん、素敵だね!」というあなたのホームページ。それで今まで何人のお客さまが来てくれましたか?
同様に、誰が見ても「うん、素敵だね!」というDMやポトフォリオやイベント会場のディスプレイ、何人のお客さまが「そうそう!こういう家がほしかったんです!」と反応してくれましたか?

と、ちょっと厳しいことを書いてしまいましたが、その不安はあなただけではありません。 実は「絞ったらますます減ってしまうんじゃ?」は、誰もが必ずといっていいほど突き当たる疑問です(私もそうでした)。だって絞れば絞るほど、確実に母数は減りますから。

ではなぜ母数が減るとわかっていて、それでも“理想のお客さま(ターゲット)”を絞る必要があるのか?
答えは、絞らないと、絞ってきた“競合”に“理想のお客さま(ターゲット)”をとられるからです。

“理想のお客さま(ターゲット)”を絞ると本当に減ってしまうのは、そのビジネスがシェア100%のケース(“競合”が全くいないケース)だけです。あなたの活動地域に(または日本に)建築家はあなたひとりしかいない、という場合には、絞ったらそれ以外の お客さまは来てくれませんが、 シェア100%で“競合”が全くいないなんて、建築家に限らずどのジャンルでもありえません。

特に減点のない、万人受けしそうなあなたのホームページ。その周囲に、“○○”向け、“△△”向け、“□□”向け、“◎◎”向け、“☆☆”向け、・・・・・・と、様々なそして具体的なお客さま向けのホームページがあったらどうなると思いますか?

ホームページだけではありません。プロデュース会社のイベントや仲間が集まって活動するとき、 万人受けしそうなあなたのブースの周りに、“○○”向け、“△△”向け、“□□”向け、 “◎◎”向け、“☆☆”向け・・・と 具体的なお客さま向けのブースがあったら、お客さまはどこで立ち止まると思いますか?
もうおわかりですよね。絞らずに万人をとろうとすると、結局誰からも選んでもらえなくなってしまうのです。

◆ここでひとつ実例を紹介します。

・ソニーのUSB対応携帯型充電器【CP-A2L】
 - 幅広い機器に対応! 高容量4000mAh -
 http://www.sony.jp/battery/products/CP-A2L/ (別ウィンドウが開きます)

・ソニーのUSB対応携帯型充電器【CP-A2LS】
 - スマートフォンの充電に!約2回分充電可能 -
 http://www.sony.jp/battery/products/CP-A2LS/ (別ウィンドウが開きます)

スマホユーザーのあなたは、どちらに反応しましたか?
上記の2つ、ホームページでスペックを確認するとわかりますが、中身は全く同じものです。
全く同じものなのに、後者の方がなんと9倍も売れたそうです。

違いは、「幅広い機器に対応!」と万人向けにアピールしたか、「スマートフォンの充電 に!」とスマホユーザー向けにアピールしたか、それだけです。
たったそれだけで売り上げが9倍も上がります。それが“理想のお客さま(ターゲット)”を絞ることの効用です。


【参考】
◎売れたマーケティング バカ売れトレーニング:売れたま 2011/09/02号
http://archive.mag2.com/0000111700/20110902013000000.html  (別ウィンドウが開きます)
◎日経MJ(流通新聞) 2011/08/26号

現代人は自分に必要な情報=興味のある情報、「あ、自分のことだ!」と思える情報にだけ 反応します。そしてそれ以外は右から左へと流してしまう・・・なぜならそうしないと、朝起きてから夜眠りにつくまで、それこそ一日中スマホやPCやtwitter、facebook、 TVに新聞、メールやポストに勝手に届くDM、そして電車の中吊りまで、これでもかと 入ってくる情報に疲れてしまうから。
「あ、自分のことだ!」と反応してもらうためにも、“理想のお客さま(ターゲット)”をより具体的にして 「そこのあなた!」とメッセージを出す、つまり、絞るということが必要なんですね。

◆もうひとつ実例の紹介です。
前回の記事でリピーターを想定しないビジネスの例として挙げた、学習雑誌『小学1年生』。 多くの人が子どもの頃にお世話になりました。私も毎月買ってもらうのを楽しみにしていた1人ですが、 すでに『小学1年生』『小学2年生』を残すのみで、3年生以上は休刊です。

理由は少子化だけではありません。
小学館広報室はプレスリリースで、「社会状況や生活環境が急激に変化する中、趣味や価値観の多様化、 情報の細分化と専門化など、大人の世界で起きている事象がそのまま子どもたちの世界 でもあてはまり、『学年別』に『男女共通』で『総合的な内容を持つ』雑誌という刊行形態が、 子どもたちのニーズに合致しなくなったため」と、その理由を発表しています。

かわりに立ち上げた新しいシリーズ『小学館の学習ムック』は、1冊1テーマ。
多様化し細分化する子どもたちの興味や好奇心に応えるため、1つのテーマを 深く掘り下げた専門的内容のムックです。
『おもしろくてためになる』という学習雑誌の基本コンセプトはそのままに、すべての子どもには受け入れられなくても、 興味のある子どもが「これこれ!買って!」と求める本を刊行していくという方向に、すでに舵を切っています。

【参考】
◎2011年12月1日付 株式会社小学館 広報室によるプレスリリース
http://www.shogakukan.co.jp/st/iles/sho3_sho4.pdf (別ウィンドウでpdfが開きます)
◎2012年2月1日付 株式会社小学館 児童・学習編集局によるプレスリリース
http://www.shogakukan.co.jp/st/files/gakushumook.pdf (別ウィンドウでpdfが開きます)

時代の変化に対応し生き残るために、“理想のお客さま(ターゲット)”を絞り、“自分の強み” を活かして勝負に出るか、それとも守りに入ってこれまでのやり方を続けるか?
あなたはどちらを選択しますか?