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加藤 武志

【左】建築家:加藤 武志(かとう たけし) 1949年生まれ。東京都出身。1984年KATO建築設計室 設立。1998年 加藤武志建築設計室に改称、主宰。 構造・素材・自然との関わり・風の流れを重視した家づくりを展開し、様々な雑誌等で多く取り上げられている。
【右】スタッフ:森藤 麻衣子(もりとう まいこ) 大学で土木を学んだ後、住宅設計の世界を目指してデザインファーム建築設計スタジオ 昼間部住宅建築設計スタジオに入学。 卒業後、2009年より、加藤武志建築設計室に勤務。
加藤武志建築設計室 http://www.ne.jp/asahi/kato/takesi/

卒業生がスタッフとして働く設計事務所を訪ねて、建築家からは仕事のこと、DFのこと、建築に対する思いなど、そして、卒業生からは現在の仕事について聞いて見よう、という1度で2度おいしい企画です。
今回は様々な雑誌等で活躍されている、建築家 加藤武志さんの登場です。市川の「加藤武志建築設計室」を訪ね、建築に対する様々なお話を伺いました。

デザインファームの方のポートフォリオは今までたくさん見たんですが、どれもレベルが高いですね。

「人が暮らす器である家ですから、すべては人ありき。家は人が主人公ですよ。」

【DF】
先日は講演会にお越しくださりありがとうございました。本日もよろしくお願いいたします。 加藤さんの設計なさった家は優しくてすてきな住宅が多いのですが、その秘密を今日はたくさん教えてください。まず、どうして建築家になろうと思われたのかをお伺いします。
【加藤】

僕はあまりストレートに建築家になった訳ではないんですよ。別のことをしていてこれから建築家になろうという人の鑑になるような経歴なんです。学校は機械科でした。ですからそちらの方にまず進みました。電車のエアブレーキをつくる会社に入って自動扉のドアーエンジンの設計に携わってから建築に関わるようになりました。それで建築に目覚めてしまったというか、建築っておもしろいもんだなと。それから専門学校へ行って大学の建築科へと、両方とも昼間働きながら6年間通ったんです。30才くらいで大学を出たんですが、そのときにはもう子供がいましたからね。
それからある設計事務所に入ったのですが、最初は大手建設会社の住宅設計をやりました。2×4(ツーバイフォー)住宅の仕事ですが、最初から建築家が設計するというものでした。工法が決まっているだけで自由に設計する注文住宅です。敷地を読みとって。施主さんの人となりを読み取ってやるのは今と同じです。

【DF】
先日講演会でもお聞きしたのですが、かなりの数の設計をなさってますね。
【加藤】
その設計事務所から独立してこれまでに400件以上の住宅を設計していますけれど、そのうちの半分くらいがこの頃のものです。年間10数棟、20棟近い年もありましたから次々とこなさなければならない。全部敷地を見て施主さんに会って打ち合わせをして図面を描いて、これを一人でやるんですから、鍛えられましたね。結構評判がよくて、モデルハウスもやりましたし、全国規模の会社でしたから関東だけではなく地方の仕事もありました。たくさんの設計をこなすことで、見えてきたことは多いです。特に2×4の構造では少ない材料で強度を出す合理的な仕組みを学びました。ただ日本の気候風土になじむ工法ではないので、そのままやろうとは思わないですけれど構造的に得るものは大きかったですね。そこから日本の家とは何かを考え始めました。西洋の物まねじゃだめで本当の日本の家って何かと。現代の人がこの日本で気持ちよく住んでいくそれは何かと、そういうものを求めて行った結果、自分の形になってきたと思います。
【DF】
ツーバイフォーは北米のものですが、そこから日本を考え始められたのは興味深いですね。もう少しお聞かせいただけますか。
【加藤】
西洋は壁の文化ですね。あの壁の中のぽつんとついてる窓ってすごくすてきで魅了されます。でもそれをまねて窓を造ってみても、日本の薄っぺらい壁の窓じゃどうにもならない。全然違うものになってしまう。元々の感性、考え方が違う。壁ありきの窓と、開口ありきの間仕切りの空間とでは根本的に違う。じゃ床はどうかと、元々日本は座(ざ)の生活だった。これは日本独自の文化ですよね。これを一つひとつ形にしていく。たとえば中と外をつなぐことを考えれば開口部のあり方も見えてくるし、座の生活と意識すれば素材の選び方もわかってくる。こうやって形にすることで今の日本の家というものが見えてくる。
【DF】
もう少し具体的にお聞きすることはできますか。
【加藤】
具体的には、家と庭は一体に考えて計画する。そして風通しのいい家にする。窓は開けとけば良いってもんじゃなくて、ちゃんと風道を作ること。それからプロポーションを低めに押さえて美しい開口部を作る。そうすると美しい開口部は美しい壁を作りますからね。それから大切なのは自然素材で家を作る。先ほどもいいましたが、日本はもともと座の生活ですね。今でも靴脱ぎの生活で裸足で床とのつながりを強く持っている。これは日本独自の良さな訳ですよ。だから自然素材がいいんです。また建物がゆっくりと年をとっていく。朽ちるに従って味が出てくる。人工的なものではこうはいかないですからね。
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【DF】
靴脱ぎの話は全く同感ですね。日本人の靴脱ぎの習慣は触れる感覚を足以外でも敏感にしますから、床以外の素材も重要になりますね。私見ですが、触れることに気を遣っていた西洋人はル・コルビュジエくらいだと思っています。 加藤さんの作品を拝見させていただくと、今おっしゃったデザインの質の高さがとても心地よいですね。それと同時に家族の関係や出来事もとても大事に設計されているように感じます。モノとコトのバランスですね。そのあたりはいかがですか。
【加藤】
まずは人を守るシェルターとしての機能・性能を家の幹において、枝や葉であるデザインをしていく訳ですが、これもデザインのためのデザインではなく、人が暮らす器である家ですから、すべては人ありきですよね。家は人が主人公ですよ。斬新で奇をてらったデザインは私にはほとんどなくて、生活の中から自然に出てくる「生活のデザイン」。それが美しいと思います。いつもパーティ開いている訳じゃなくて普通の暮らしができるってことが一番大切じゃないですか。それには何度も言っていることですが、「普通の家」を造るのが一番いいんですよね。
【DF】
いつもパーティを開いている訳じゃないって学生の設計をみている身には少しどきっとする言葉でした。そこで普通の家を設計する時の基準というか考え方を教えてください。
【加藤】
施主その人の人となりをどこまで読み取れるか、それと土地なりとですね。その土地に行って環境をみることが大切ですね。しかし施主さんその人が今まで長かったであろう生活、その家族の生活そういったものを一瞬にして入った我々がそう簡単に読み取れるはずがないわけです。だからもういろいろな話をさしていただいて、言葉にならない行間を読み取らしていただいて、それを形にするということ、それがその方たちにとっての普通。要するにその家族が穏やかに安心して、リラックスできる家をつくることが大事。普通ってこういうものですよと決めて提案すると、それではハウスメーカーになってしまう。過去に手がけたモデルハウスでは、施主さんの顔が浮かばなくて苦労しましたからね。やっぱり普通ってそれぞれ違うんですね。それを探すのが私のやり方。
【DF】
穏やかな生活というのは心に染みる言葉でした。お施主さんを読み取って形にすることは第一だと思います。それと同時に将来も満足してもらうことも重要ですよね。そのあたりはどのようにお考えですか?
【加藤】

将来を考え、施主さんの気づかないことを提案する、これも大きな要素だと思いますね。施主さんの考える将来は漠然としているんですね。あまり具体性がない。我々はたくさん時間の変化や代替わりを設計を通して経験していますから。今のままのさきに将来があるのではなく、10年20年と年を重ねていった上でできる生活がありますよ。それは今よりもっと良くなりますよと、そういう将来の可能性も提案してくということですね。提案するためにはいろいろな寄り道をして経験してきたことが、やはり役に立っています。若い人にもいろいろな経験をしてそれを設計に活かしてほしいですね。

 


僕は師匠がいないものですから、直接教えを請うという経験がないんです。音楽もやるんですが若い頃はお金もないので譜面が買えない。そこで楽譜屋で、ん-って見て覚えてくる。それを譜面に書くんですが結構間違っている。これがまたおもしろいんですね。それがオリジナルになったりして。建築もまた図面でしっかり教わるのもいいけれど、いい建築を見てその印象を自分なりに創っていく。これがいいのではないかと思っています。そのためにもいいものを見分ける目を身につける、やはりいろんな経験、体験をしておくことですね。それから私のお施主さんはすばらしい人が多いので、生き方とかやられていることとか結構影響受けますね。こういう方たちとたくさん出会ってきたこともいい経験です。

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「設計って、心の中全部さらけ出さないとできない仕事です。」

【DF】
加藤さんが設計なさった家は、できた当初も素敵なのですが、5年10年と住んでいるとファンになっていくように感じます。建築家に頼むとかっこいいんだけれど住んでみるとちょっと・・・・・という話はよくあるのに、加藤さんは住む人をファンにする数少ない建築家だと思います。建物の素敵さと住まいかたの素敵さの両方に直接気づいた人と、テレビや雑誌などで間接的に気づいた人がお施主さんになっているのでしょうね。加藤さんは普通より数多くの設計をなさっているのに、一軒もトラブルがないのも言葉通りの設計を実現されているからでしょう。この数で一軒もなんのトラブルもないなんて、これは本当にすごい。 さてここらで森藤さんに聞きましょう。
【森藤】
この間オープンハウスで見てもらった「吉祥寺の家」のお施主さんも、決めていた土地が入手できずに中断しましたが、時間をかけて新しい土地を探し再開となりました。また兄弟で住む二世帯住宅の依頼に、将来のことまでよく考えた上で計画するようにアドバイスさせてもらったところ一年後に家族で話をした上で依頼をしていただきました。やっぱりファンなんですよね。
【DF】
それはやりがいがありますよね。森藤さんの仕事は具体的にはどういう内容ですか?
【森藤】
基本的には加藤さんがイメージしたものを、実際につくるためにCADで図面化しています。
【加藤】
ただそこに至るまでの、土地を見たり、お施主さんに会ったり、聞き取りをしたりとかは一緒にやっています。結構一緒に相談しながら創っていくという感じですね。イメージを出してもらったり、森藤さんがぽろっと言うのが生きたりするんですよ。結構聞くよね。どうしたらいいって。
【森藤】
そうですね。会話で生まれてくることも多いですね。お施主さんの印象もわかっているので。
【DF】
じゃあ最初のプランの段階から加藤さんと一緒に進めていくんですか?
【森藤】
はい、私も同席して、お施主さんの顔を加藤さんと一緒に見ながらの打合せなので、家に対する思いなど、お施主さんが発する言葉の微妙なニュアンスをみんなで共有できるのがいいですね。お施主さんとはメールでのやり取りも多いのですが、文字ですと対話と違って細かなイメージやニュアンスがわからないんです。それを読み解くのも二人だといいですね。一人だと行き詰ったりして。
【加藤】
打ち合わせも全部一緒に行きますからね。一緒に動いているので現場でなんかあったときも、いちいち僕に聞かなくても判断がつくんですね。そういう面でも全部共有させようと思っているんですね。
【DF】
共有ってすごいですね。 そんなボスはなかなかいないですよね。
【加藤】

それは僕が気が弱いからですけれどね。(笑)
でも設計って、心の中全部さらけ出さないとできない仕事ですからね。だからかっこいいのもそうでないのも全部見られてますよ。おろおろしてね。

【DF】
森藤さんは全部さらけ出しているんですか?
【森藤】
はい、そう思います。(笑)
【DF】
さらけ出して居心地がいいのが一番ですね。
【加藤】
僕の娘と同年代なのでわかりやすいですね。
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「自分が「いいな」と思う直感で身を投じてその場所で精一杯がんばってきて、今にたどり着いてる」

【DF】
それでは、今やってる設計について教えてください。
【森藤】

静岡で平屋の計画をしています。模型はデザインファームのOBが、手伝ってくれました。かなり細かく作り込んでくれたので、お施主さんにもよくわかってもらえました。コンパクトで住みやすい家になっていると思います。
馴染みのない静岡ということもあり、見積りの調整に苦戦しているのが現在の大きな課題です。
現場が始まれば、私の実家の愛知県が近いのでタイミングが合えば里帰りができるかもしれません(笑)

【DF】
森藤さんはどうやってここに入ったんですか?
【森藤】

えーと…。運命です(笑) 運とタイミングがよかったんだと思います。
卒業制作が終わって脱力していたところに、たまたまデザインファームのOBが、ホームページで加藤武志建築設計室がスタッフを募集してたよ、と教えてくれました。学生の時から加藤さんの設計は雑誌でもよく拝見していたので、恐れ多い気持ちがあったのですが、思い切って応募してみました。

【加藤】
経験者で募集したんですけれど、そのとき来たポートフォリオとかすごく印象がよかったんですね。ま、いけるかなって。デザインファームの方のポートフォリオは今までたくさん見たんですが、どれもレベルが高いですね。
【森藤】
2世帯住宅の課題を見てもらったんです。2世帯って住み継ぐこと、次の世代のことまで考えるのが難しいんだよね、というようなコメントをいただき、内容を良く見てもらえたのがうれしかったのを覚えています。
【加藤】
2世帯っていわゆる共同住宅になってしまうのがあって、それでは意味がない。次の世代のことまで考えないと。2世帯住宅はずいぶんと設計しましたし、2世帯住宅がテーマの雑誌対談もしましたし、私自身が2世帯に住んでますから、代替わりを経験しています。住み継いでいくものですからそこまで考えないといけない。やっぱりむやみに大きすぎない方がいいですね。きゅっとしまったのがいいですね。
【DF】
入った当初と今と変わったことってありますか。
【森藤】
入った当初は先輩が何人もいたので、仕事の指示なども加藤さんとダイレクトではなかったんです。先輩の担当している仕事を手伝うところから始めて、仕事を覚えていきました。先輩たちはそれぞれ独立して、今では加藤さんと二人ですから、会話がたくさんできるのがいいですね。 最初は何もわからず、生まれたてのひよこの状態でした(笑) 経験を重ねることで、ここでの設計が自然と感覚的に身についているような気がしています。初めは恐れ多い気持ちと自信のなさから加藤武志建築設計室のスタッフを名乗るのも恥ずかしさがありましたが、今は、加藤武志建築設計室の人間なんだという自覚を持って、とても自然にのびのびとやらせてもらっていると思います。まだまだですが…。 加藤さんが設計する家は学生時代から雑誌等を見て、素敵だなとドキドキするような気持ちを抱いていたので、学生時代からやりたかった建築と違うとか、そういったストレスは全くありません。 他の事務所のオープンハウスを見学に行って普段やっている設計との違いを見て感じたとき、 無意識に自分の中でスタンダードなものができてきているんだなぁと感じることがあります。 判断基準が自然と身に付いているだなって。 今、この環境に身をおいて、たくさんの貴重な経験をさせてもらっていると思います。
【DF】
判断基準ができてきたというのはとてもいいですね。それでは最後に森藤さんからこれから建築やりたいと思っている人に何かありますか。
【森藤】
そうですね。なんていうか、のびのびとやってほしいですね。
好きだなとか、嫌だなとか自分がどう思うか感じることを大事にやってください。
そうすると自然に目標とするところにたどり着けると思います。 私の場合も、自分が「いいな」と思う直感で身を投じて、流れに身を任せながらも、その場所で精一杯がんばってきて、で今にたどり着いている感じです。
【DF】
森藤さんは昼間部住宅科の2期生で卒業して4年半になります。在学中も時間をかけた密度の濃い設計をする学生でした。特に最後の卒業制作「低層集合住宅」は大変レベルが高く、強く印象に残っています。自分の目指す建築のお手本になる建築家のもとで、素のまま成長している姿はとても素敵でした。
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加藤さん、森藤さん。長いインタビューにおつきあいいただきありがとうございました。これからも質の高い素敵な住宅を作り続けてください。