デザインファーム > 就職実績 > 建築家インタビュー > 日比生 寛史

日比生 寛史

【左】建築家:日比生寛史(ひびお ひろし) 1963年生まれ。福岡県出身。1998年より日比生寛史建築計画研究所主宰。
自由な発想と、合理的な空間の組み立てで、生活に+αの楽しみがある家々は、メディア・マスコミでも多く取り上げられている。
【右】スタッフ:西本 康人(にしもと やすひと) 3年間の商社勤務を経て2009年昼間部建築設計スタジオ入学。
卒業後、2011年より、日比生寛史建築計画研究所に勤務。

日比生寛史建築計画研究所
http://hha.bz/

卒業生がスタッフとして働く設計事務所を訪ねて、建築家からは仕事のこと、DFのこと、建築に対する思いなど、そして、卒業生からは現在の仕事について聞いて見よう、という1度で2度おいしい企画です。
今回はデザインファームでも講師として活躍されている、日比生寛史先生の登場です。2月のとある日、「日比生寛史建築計画研究所」を訪ね、建築家・日比生寛史さんとスタッフの西本康人さんに、建築に対する様々なお話を伺いました。

人間対人間のつきあいをするような、まさに建築をつくりあげていきたいという人にはぴったりの学校ですよね

「生活を豊かにするサプライズのある提案を大切にしています。」

【DF】
まずは、「日比生寛史建築計画研究所」の事についてお聞きしたいのですが、建築家として一番大切にされていることはなんですか?
【日比生】
クライアントにもよく言うのですが・・・、あ、僕はお施主様のことを、上下関係なく、一緒に創っているという意味も込めて「クライアント」という呼び方をあえてしています。同じような意味合いで、僕は決して自分だけの「作品」とは思っていないので、「プロジェクト」という言葉を使っています。 単にクライアントから要望される部屋を並べるだけではなく、生活を豊かにするプラスアルファの要素、そういったサプライズのある提案を大切にしています。
【DF】
具体的にサプライズというのはどういうことですか?
【日比生】
事例を見てもらうとわかりやすいかな?例えば「花見の家」という作品です。
http://www.designfarm.org/wp-content/uploads/2016/10/pic_011-640x238.jpg

「花見の家」 外からは穴が空いたように見えるトンネルスペースが、内部では読書スペースとしても使われている。

【日比生】
クライアントの要望をかなえた上で、この家にはトンネルのようなスペースを設け、そこを読書スペースにしてみてはいかがでしょうか、という提案をしました。このトンネルの先には、隣に家の保存樹木である桜の木があり、その桜を眺めるために、トンネルをちょうど良い角度に向けて振っています。床は畳が敷かれていて、壁は背中をもたれかけても良いように、ソファーの素材でくるんでいます。心地よく本を読むことができ、ふと視線を上げると、そこに桜の花を見ることができる。そんなプラスアルファの要素です。
【DF】
部屋というよりは、家具のような空間ですね、なんだか暮らしているとワクワクしそうですね。
【日比生】
そうですね。いわゆる部屋ではなくて、「居場所」といった感じです。これは、クライアントが要求したことではなく、こちら側で何かできるかなと考え、提案したことです。春には桜の木を見ることができ、あるときは読書スペースになり、あるときは茶室になったり・・・こんな風に、要求される住宅プラス、何か一つ生活を豊かにするプラスアルファの部分をとても大事にしています。そして、この「居場所」は構造の一部になっていて、この部分があるから、その下のスリットの窓を作ることができるのですよ。構造でありながら、敷地の特徴を活かす場所であり、遊び心の場所という、一つで3つおいしいわけです。 ただ・・・心配されたのが、万が一桜が切られてしまった場合です。そんなことになってしまえばこの場所が台無しになってしまいます。そこで、敷地に紅葉を植える計画も提案しました。桜がなくなった場合は、「春の部屋」から「秋の部屋」になります(笑)。
【DF】
なるほど。もう一つ、未来のサプライズがあるというわけですね。外観は不思議な穴が空いているように見えますが、そこにこの建物の魅力が詰まっているのですね。
【日比生】
不思議という意味ではこの作品も変わっていると思いますが・・・。「rhythm-リズム-」という集合住宅です。集合住宅といっても、敷地が東京のまさに中心地にあって、今後、確実に開発が進むエリアにあるので、住居だけでなく、店舗・事務所が混在する建物です。
http://www.designfarm.org/wp-content/uploads/2016/10/pic_021-640x208.jpg

今までの作品を、写真や掲載雑誌などを通して丁寧に解説して下さいました。

【DF】
本当ですね。すごく大胆な形をしていますね。
【日比生】
この形も、ただデザインをねらったわけではないですよ!まずは、「全部屋同じプランの繰り返し、上階の眺めがよくて、下階は暗い、みんな同じ向きの部屋」という集合住宅によくあるイメージを払拭しよう、ということから考え始めました。これが、クライアントの要望でもあったわけです。
【DF】
どのように考えていったのでしょうか?
【日比生】
まず、敷地の南北が道路に接していること、敷地に1.5mの高低差があることから、南・北それぞれにアプローチできる、メゾネット形式の住居を考えました。こうすることで上下階の優劣を少しでも解消できますよね。そして構造についてですが、通常は床・壁・天井が主構造となりますが、ここでは内部階段も構造の要素に加わり、これがジグザグの壁面を支えているのです。だから本来地面から立ち上がる壁が途中で切れて、ガラスの壁ができあがる、というわけです。すると、各階で外を眺める方向に変化ができ、メゾネットの住戸それぞれが魅力的な空間を持つことができます。また全体の形もよりダイナミックなものになり、街並みに動きをあたえる力になっていると思います。
【DF】
おもしろいですねぇ。この形にはいろいろな意味が込められているわけですね。
【日比生】
周辺環境の条件や、建物に要求されるプラン、構造を様々な角度から検討していった結果です。一つ一つの要素がうまく絡み合ったときにできた結果がデザインとして現れてくる、ということですね。 そういえば、最初にお話した「花見の家」を担当していたのが青木律典くん(※)なのです。事務所に勤めて2年目ぐらいだったかな?このときは、クライアントに設計提案をする時から青木くんにも案を出してもらって、一緒に考えていったんですよ。
※青木 律典・・・デザインファームOB。現在は独立し、デザインファーム講師としても活躍。

「僕の設計スタイルは、チームで意見を出し合って作り上げていくボトムアップ型。そのために欲しい人材は“一緒に仕事ができる人”です。」

【DF】
スタッフの話が出ましたが、スタッフとはどんな関係で仕事を進めていくのですか?
【日比生】
事務所の設計スタイルは色々あると思うのですが、私はスタッフから様々なアイディアが出てくるのがよいと思っています。もちろん、新人が何か提案するというのは難しいと思いますが、うちのような事務所だと、プロジェクトの最初から最後まで担当者としてずっと関わっていくことになるので、2年ほど経つと、スタッフとして提案できる能力は十分に身につくと思います。西本くんにも、そんなスタッフになることを期待しています。大きな事務所になると、そこが難しいでしょうね・・・。プロジェクトが大きくなるし、そうなると、仕事のある部分だけを任されるようになるので、全体プロジェクトを見られるようになるにはもっと長い年月がかかると思います。
【西本】
早く提案できるようになりたいですね。今のところ、先輩スタッフから色々引き継いだばかりなので、まさにこれから、という状態です。先日は初めて確認申請の手続きをして、次にやってみたいことは実施図を描くことです。
【日比生】
大丈夫、これからすぐに実施図面をいやっというほど描くことになるよ(笑)。平行して進んでいるプロジェクトがいくつもあるのでちょっと忙しくなりますね。
【DF】
そもそも日比生さんはどうして建築家をめざしたのですか?そしてどのような経緯を経て今のような設計スタイルを持つようになったのですか?
【日比生】
今になって思うのが、父親が福岡で建築家だったということです。父が独立したての頃、自宅で仕事をしていたので、それを子供ながらに目にしていたのです。特に、建築をやれ、と言われたことはなく、自分は野球、漫画、ロックにはまった普通の高校生でした。ただ、大学進学を考えたとき、建築学科を自然に選んでいましたし、建築学科に進むことを決めたときには独立することを既に考えていました。やはり、父親の影響なのかも知れません。
【DF】
卒業後はどういった事務所に行かれたのですか?
【日比生】
あの頃はバブル真最中の時期だったので、誰でも比較的自分の行きたい事務所に行ける人が多かったと思います。私は早川邦彦さんの事務所に行きました。厳しかったですねぇ。それまでの学生気分が一気に抜けて、日々仕事の事だけを考えていたように思います。
【DF】
なるほど、修行時代って感じですね。その後、リチャード・ロジャース・パートナーシップに移られたのですね?
【日比生】
事務所の先輩がレンゾ・ピアノの事務所に転職し、その人を経由して「ロジャースの事務所で日本人スタッフを募集しているらしい」という事を知ったのです。どんな仕事の仕方をするのかとても興味あったので、すぐに応募しました。そんな噂のような話なので、面接にはそんなに人が集まらないだろう、と思っていましたが、面接当日には6~7名の人が待っていて、中にはものすごく優秀な人もいて、「あぁ、ダメかな」と思いました。でも、結果は合格でした。
【DF】
すごいですねぇ。合格の秘訣はなんだったのでしょうか?
【日比生】
後から聞いた話によると、ロジャースの事務所は「能力やキャリアだけでなく、チームとして働ける人」を求めていたそうです。面接をしたときにその点が自分は他の人より優れていた、ということらしいですよ。設計の力だけじゃないんだと、ちょっと複雑な気分でしたけれどね。
【DF】
でも、一緒に仕事をしていく上で、人間性ってとても大事ですよね。
【日比生】
そうですね、設計ってどうしても人間同士の関係から生まれるものですから。ロジャースの事務所はそういったチームとして仕事をこなし、そのチームのなかで様々な意見を出し合ってものを作っていく、ボトムアップ型の仕事をしていく事務所だったんです。それがやっぱりとても楽しかったですね。だから、私もスタッフから意見が出てくるのは大歓迎で、その為にも総合的に一緒に仕事ができる人を求めるんだと思います。
http://www.designfarm.org/wp-content/uploads/2016/10/pic_031-640x224.jpg

(左)模型のそばにロジャース氏の写真 (中)質問に丁寧に答えてくれる西本さん (右)西本さんのワークスペース

「建築を学ぶ前に社会経験があることは、“人が住む家”を考える上での貴重な体験。」

【DF】
なるほど。日比生さんのもとで働くスタッフは、とても面白い経験ができそうですね。先ほど、「総合的に見て一緒に仕事ができる人」とおっしゃっていましたが、西本くんはずばり、どんな人ですか?
【日比生】
やっぱり社会経験があるので、一緒に仕事していく上で、社会人としてのバランスが取れている人だな、というのが第一印象。うちでは、お施主様との打合せにもスタッフがついて行くので、そういうお客さんの前できちんと話ができることって、実はとても重要です。学生経験しかない人には、なかなかできないことですよね。
【DF】
西本くんは今、設計事務所で働いていて、これまでの経験が役にたっていると感じますか?
【西本】
はい。とても役にたっていると思います。自分の基準、価値観にも影響していると思います。デザインファームに入る前に3年間勤めていましたが、そこでとても尊敬できる上司と知り合うことができたのです。これはとても貴重なことだったと思っています。どうしてその上司を尊敬できたか、というと、とにかく話がうまい。その上司に怒られても、その理由がしっかり分かって、自分が怒られていることを素直に受け入れることができたのです。人に話をするときに、わかりやすく説明をできる人は尊敬できる、と思いました。
【日比生】
わかるなぁ。難しい事を難しい言葉で話す事は、まったく意味がないと思っています。だって、相手に伝わってない、という事ですから。難しい事は、だれでも分かる言葉を使って話す。相手に伝わることが一番大切。私が一番気をつけていることでもありますね。クライアントにも、難しい建築用語で自分の建築理論を語るよりは、相手が求めている事、知りたい事をわかりやすく話すようにしています。 それから、建築設計というものは、いろいろな分野の知識があって成り立っているものだと思うのです。だから、建築を学ぶ前に社会経験があることは、けっして回り道ではなく、「人が住む家」を考える上での貴重な体験だと思います。
http://www.designfarm.org/wp-content/uploads/2016/10/pic_04-640x224.jpg

使い勝手良く片付けられた仕事場。ここから模型や図面が制作されていくのかと思うと、ワクワクしてきます。

「人間対人間のつきあいをするような、まさに建築をつくりあげていきたいという人にはぴったりの学校。」

【DF】
ところで、西本くんはどんなきっかけでこちらの事務所で働くようになったのですか?
【西本】
学生のときからオープンデスク(※)に来ていたのですが、卒業後はアルバイトで模型を手伝ったり、すこし図面を手伝ったりしていました。就職活動もしていたので、他の事務所にも行っていました。そんな時、日比生寛史建築計画研究所の先輩スタッフと話す機会があったんです。そうしたら、日比生先生から連絡があって・・・。
※オープンデスク・・・学生が建築設計事務所で実務を体験する、インターンシップのような制度。
【日比生】
実は、うちで働いてもらうスタッフを雇うときには、前任者の「この人いいですよ」というアドバイスで決めることが多いです。私は常に事務所にいるわけでもないし、事務所の仕事を一番理解しているのはスタッフです。オープンデスクで来る人はこのスタッフと一緒に仕事をしていますから、スタッフはいろんな事が見えてくるわけですよ。だから、そのアドバイスを参考にすることが多いです。
【DF】
やはり、設計事務所での就職を希望する人はオープンデスクに行くことが大切ですね?
【西本】
学生のうちに利用するといいと思います。オープンデスクに行くと、本当にいろいろな事が分かりますよ。しばらく実務を経験することで事務所の雰囲気も分かるし、ボスの人柄も分かる。なんといっても、事務所のスタッフから、直接いろんな話を聞けるのがとてもいいんです。就活には、まずはオープンデスク、だと思います。
【DF】
まずは資格、という風潮もあると思いますが、西本くんはどう思います?就職活動に資格があればよかったのに、と思ったことがありますか?
【西本】
入学する前には、考えました。どこで建築を勉強しようかと思ったとき、資格については最後まで悩みました。ただ、「アトリエ系事務所」に勤めるための条件ではない、ということを知って決断できました。実際、こうやって仕事に就くまで、資格のことが問題になることはありませんでした。
【日比生】
建築士の資格が本当に必要になるのは、自分で事務所を構える時でしょうね。それまでは、必要ない、とは言いませんが、なくてはならないものではないですね、特に「アトリエ系事務所」では。
【DF】
建築業界にはいろんなジャンルがあって、最初はそのあたりがわからないんですよね。「設計」と「施工」は全く別の世界だし、設計事務所といっても設備事務所や構造事務所もありますし。西本くんはその「アトリエ系事務所」の存在をどうやって知ったのですか?それも入学前に。
【西本】
以前から、身の回りにある多くの建物が嫌だな、と思っていて、そういう家ではなく、もっと自分が気になる家がどうやってできていくのか知りたかった。それが、建築家の仕事で、その事務所のことを「アトリエ系事務所」というのは学校の説明会で知りました。
【日比生】
「アトリエ系事務所」と他との違いは、つまり、「家」を住む人のために考えてつくっていくのに対して、「家」をたくさんつくって利益を出すための商品として扱うところの違いでしょうね。前者が「アトリエ系事務所」で、後者はいわゆる企業でしょうね。
【DF】
「家をつくる」ということは、そこに住む人と一緒に考えていく、とても人間関係の濃い作業だと言うことですよね。デザインファームでも、やはりアトリエ事務所的な考えで設計することを大事にしています。
【日比生】
ええ、そうですね。デザインファームで教えていていつも思うのですが、学校というより設計事務所のような雰囲気がありますよね。学校に通うことで、2年間どっぷり建築につかる。「アトリエ系事務所」の予備練習みたいなところです。だから、建築を商品としてつくるのではなく、人間対人間のつきあいをするような、まさに建築をつくりあげていきたいという人にはぴったりの学校ですよね。
【DF】
そういって頂けるととっても嬉しく思います。是非ともそんな目的のある人に集まっていただきたいです。では、最後にこれから建築を勉強したいと思う人に一言いただけますか?
【日比生】
建築に限らず、どんな世界にでも、どんな人にも恩師と呼べる人が一人はいると思うのですが、そういう恩師と呼べる人に何人出会えるかということが非常に大切なことだと思います。僕には建築に関する三人の恩師がいます。まず、「建築というものがどんなものなのかを教え、入口に導いてくれた父」、次に「建築の厳しさと、そこまでやらなければならないのかという執念を叩き込んでくれた 早川邦彦氏」、最後に「建築の楽しさと、何でも出来るという建築の自由さと可能性を教えてくれたリチャード・ロジャース氏」。直接言葉で教わったわけではなく、建築が好きで好きでたまらない三人の姿を見て学んだことです。受けた影響というものは、その時にはたとえ分からなくても、年を重ねて、色々なことを学ぶにつれてじわじわと染みてくるのです。デザインファームに学ぶ2年の間には、建築に関する恩師と呼べる人に出会える可能性が充分詰まっていると感じています。
【DF】
そうですね、ただ「建築を学ぶ」だけではなく、そういった「人との出会い」も自分が進む道に大きな影響を与えるものですよね。今日は、本当に貴重なお話をありがとうございました。
http://www.designfarm.org/wp-content/uploads/2016/10/pic_05-640x224.jpg

普段、学校でお会いする印象とはまたひと味違った、建築家 日比生寛史さんのお話は大変興味深かったです。長時間のインタビューでしたが、あっという間に過ぎてしまいました。
これからもデザインファームをよろしくお願いいたします。そして西本さん、プロとしてのお仕事は始まったばかりですが、今後の活躍を期待しています。