建築意匠のプロを育成する建築学校
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【左】牧野 徹
1954年生まれ。東京理科大学工学部1部  建築学科卒業。一級建築士
【右】水沼 均
1958年生まれ。東京理科大学工学部1部建築学科卒業。同大学大学院修士課程建築学専攻修了、工学修士。
一級建築士。東京理科大学非常勤講師
問ではない、プロの仕事そのものが学べる。僕らはそんな学校が作りたかった。
【牧野】建築家のスタイルは、ここ数年で大きく変わり始めたね。これまで“建築家”といえば、一級建築士として経験を積んで独立開業した、芸術家肌の個人建築家のイメージが強かった。 でも、今はデベロッパーや建設会社などに勤めて設計家として活躍する、企業内建築家も増えつつある。施主のニーズが多様化するとともに建築家の道も広がり、 何よりも“建築家”という職種が社会に広く認知されたのがうれしいね。

【水沼】テレビや雑誌などメディアへの露出が増えたことで、建築家そのもののイメージが変わったのでしょうね。

【牧野】以前なら、家を建てるときはハウジングメーカーや工務店に発注するのが一般的だった。それが現在では、約30%の人たちが「建築家に依頼する」と答えている調査データもある。 それだけ“建築家”という存在が一般の人々にも浸透してきたということで、建築家を目指す若者も年々増えている。

【水沼】でも、建築家に憧れる人は増えているのに、プロになるための技能をダイレクトに学べる学校は少ない。僕も牧野先生も建築家を目指して大学に進み、工学部で建築を専攻したわけだけど、 大学はあくまでも学問の場。建築設計の仕事やスキルを実践的に学ぶことはできません。学生の頃はその違いがわからなかった。

【牧野】だからこそ僕たちは、建築家をめざす学生が「プロの仕事」を実践的に学べる学校をつくりたかった。それが、“建築農場”“プロ建築家のファーム”の意味を込めて開校した、 このデザインファームなのです。ここでは、入学試験も行わないし、前期・後期のテストなどもない。その理由は、ここが建築知識を覚える学問の場ではなく、 建築設計の実務や工程を身につける実践の場だから。

【水沼】もちろん、講義型の授業もあるけど、基本は実践。つまり、建築家たちの実際の仕事と同じ工程を踏みながら、プロの仕事をシミュレートしていくこと。 それがデザインファームならではの実践教育なのです。
築家の役割は、モノ作りではなく「こと」作り。
人々の生活やドラマを創出していく仕事です。
【牧野】生徒に伝えたいことのひとつが、建築家とは「モノ」を作るのではなく、「こと」を作る仕事だということ。たとえば、 クライアントの家を設計するとき、僕たちはクライアントの生活をイメージし、その人生がよりドラマチックに広がっていくような空間をデザインしていく。僕たちが手掛けるのは図面であって、 その図面から完成するのは“家”というモノです。でも、その家に込めた僕たち建築家の思いは、クライアントの新たな人生を演出し、そこからさまざまなドラマが生まれていく。 だから、建築設計の醍醐味は映画と同じで、モノではなく「こと」を描くことにある。どんなに斬新でインパクトのある設計でも、 人々の生活や人生を無視した建築物はモニュメントでしかないと思うのです。

【水沼】牧野先生は昔から、「建築とは、人との出逢いや関係、出来事を創造することだ」と言っていましたね。でも、僕が建築家をめざしたそもそもの動機は、子供の頃から飛行機模型が大好きで、 モノを作る仕事がしたかったから。それも、人が存在できる内部空間の創造がしたかった。それが建築設計という仕事につながっていったのですが、30歳を過ぎた頃、ふと気づいた。 自分がこだわっていたのは単なる内部空間ではなく、建物という閉鎖的な空間における内と外との快適な関係、窓や開口部を介した人間と社会との関係だったんだと。その意味で僕もやはり、 モノではなく「こと」を作りたかったのかもしれません。
築設計において大事なことは、テクニックだけではなく、建築家としてのスタンス。
【水沼】デザインファームはプロの建築家を養成する学校ですが、入学してくる生徒は、まったくの素人から建築設計の経験者までさまざま。 また、初心者には図面を引くための鉛筆の持ち方から始めて、間取りの作り方や窓のつけ方など手取り足取りでスタートしますが、構造設計や設備設計などエンジニアの分野の“数式”は教えません。 それは僕たち建築家の実務には必要がないからです。それでは、建築家を目指すうえで設計に必要なテクニックだけを覚えればいいかというと、そういうものではない。 テクニックを身につけるのは必須だけど、感性を磨き、個性や主張を育て、建築家としてのスタンスを見出していくことがとても重要だと思う。

【牧野】そう、テクニックよりもっと大事なのは、建築家としてのスタンスです。建築家には、自己満足としての表現力ではなく、 クライアントのニーズにオリジナルな表現で応える創造力が求められる。そして、建築物には、それを手掛けた建築家の個性や主張とともに、その人の生き様や人間味までもが現れるもの。 デザインファームが授業にさまざまな手法やアイデアを盛り込んでいるのも、ここで学ぶ生徒たちに、即戦力となる知識やテクニックとともに、個性や人間味をも育んでもらうためなんです。

【水沼】そして、家でもビルでもプロダクト製品でも、モノの裏にある設計者の思いや発想に興味を持ち、その人間にも興味を持ってほしい。現代は雑誌や専門書だけではなく、 インターネットでいくらでも情報を見つけることができる。モノづくり・ことづくりを手がける優れた先人たちを発見し、その人の発想や生き方、 スタンスを知ることで何かを感じ取ってほしいですね。

【牧野】建築家の作品だけでなく、その生き方やスタンスを知ることは、ひいては自分自身を知ることにもつながるからね。テクニックを磨くだけではなく、それ以上に自身の心や人生に磨きをかける。 そうすることで、“オリジナルな自分”を創造していってほしいね。
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