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【建築家のための戦略&マーケティング  vol.11】

11.強みの秘密 -独自資源を探れ!-その2

「自分にはほめられることなんて何もない。特別な能力もないし実家もふつうだし。」なんて思っていませんか?
あるいは「自分はこれまで挫折ばかりしてきた。」とか「自分には人に言えないマイナスの経験ばかりだ。」というあなた、むしろその挫折やマイナスの経験こそがあなたの貴重な独自資源だとしたら?

◆ケンタウルスは、馬?それとも人間?
「ケンタウルス」 について、イメージしてみてください。
ギリシャ神話に登場する半人半獣の種族で、よく絵画や彫刻の題材にもなっているあれです。上半身が人間で下半身が馬、というケンタウルス。
その 「ケンタウルス」 は、馬でしょうか?人間でしょうか?

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「ケンタウルス」 はハンバーガーを買おうとファーストフード店に並んでいました。
すると店員から「四本脚の方は、ちょっと・・・困るんです。」と言われ、それなら干し草を食べようと、今度は馬たちがいる牧場にやってきました。
するとここでも、「あなたは両手を使って食べる人でしょ。ここは牧場だからさあ。」 と断られてしまいました。
さて、「ケンタウルス」 はいったいどうすればいいのでしょうか?

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彼はどうするべきか、その答えは
「どちらで生きていくか、ケンタウルス自身が自分で決めること」 です。

四本脚で誰よりも速く走る等の特殊な能力を持ち、馬の気持ちもわかる人間として人間社会の中で生きていくか、人間とコミュニケーションがとれる貴重な馬(人材)として馬社会で生きていくか、ケンタウルス自身が自分で決めることが何よりも大事なんです。

このケンタウルスの話は、「(株)ふつうラボ」 による企業向けセミナー『経営者が知っておくべき職場うつの原因と対処法』 の中で出てくるものです。
うつなどのメンタル不調で休職した社員が復帰するとき、企業側はその人に対し、配置換えなど「環境を変える」という対策だけをとりがちですが、必ずしもそれだけが良い方法ではない、ということを説明する例え話なんです。

部署を変えたり仕事の内容を変えるというのも大事な対策ではありますが、
「君は何を大切にしてどんな生き方をしたいのか?君という人間は何者で、会社は君にとってどんな存在なのか?」 ということを、まず本人と会社双方で確認することが大事ですよ、そうすれば本人は自分の中に芯を持つことができ、少しずつ元気を取り戻していきます、と企業側ができる対策を 「ケンタウルス」 を例に解説しています。

もし本人が 「自分は何者でどんな生き方をしたいか」 を決めることなく、会社が環境を変えたらどうなるか?
ケンタウルス自身がどちらで生きていくか決めることなく、ファーストフード店が環境を変えてくれたらどうなるか?

「四本脚の方向けの列を用意したのでここに並んでください。」 と、お店側が専用の窓口を設けて対応したら・・・。ケンタウルスは気持ちよくハンバーガーを買えるようになりますが、今度は銀行で同様のことが起きたとき、彼は対応できません。

「あの店はやってくれたんだから、ここも四本脚向けにしてよ。」と環境を変えることを求めます。そして四本脚専用のATMを用意してもらえたら、次は映画館でやっぱり同じ問題に突き当たり、どこまで行っても周囲が変わらない限り自分では対処できないという生き方になってしまいます。

「四本脚だけど人間社会の中で生きていこう!」 と決めたなら、ファーストフード店で断られたときに「自分は人間社会で生きているケンタウルスです。だからここで売ってください。」 と毅然として言えたのです。

「そうだったんですね。それは失礼しました。」 とお店側もその存在を認めたら、次からは堂々と列に並びハンバーガーを買うことができます。銀行でも映画館でも同じように対処でき、「ケンタウルスにしかできない特殊能力を持つ、四本脚の人間」 として人間社会で生きていくことができます。

あるいは「自分は人間みたいに両手を使って食べるけど、馬社会で生きていきたい。だから牧場に入れて。」と、周囲に馬としての存在を示すことができたら、牧場の馬たちもそのままのケンタウルスを受け入れるしかありません。

最初は渋々でも、やがて人間と会話できる貴重な存在として、例えば環境改善を牧場主に求めるなど、馬たちのリーダーとしての役割を担うことだってできます。そうなれば馬社会にとって欠かせない存在として彼にしかできない社会貢献を果たし、その一生は実りあるものとなるでしょう。

ここで、【10. 強みの秘密 -独自資源を探れ!-その1】で取り上げたIVANさんの例を振り返ってみます。

彼女もおそらく成長過程で、自身のアイデンティティについて悩むことがあったと思います。

しかしオネエ(性同一性障害)であることは彼女のせいではありません。無理に男性として生きるより、自分に正直な生き方を自分で選択した瞬間が、きっとあったのではないでしょうか。

そして、ありのままの自分を受け入れ自己表現することで、彼女にしかできない仕事や自分らしくいられる環境を得ています。もし 「ありのまま」 を受け入れることができず他人を羨んだり自分を嘆いていたら、現在のIVANさんはなかったでしょう。

「自分はどっちなんだ?」 ではなく 「両方持っている!」 とそのままの自分を受け入れるところから、人は本当の人生を始められるのだと思います。

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◆実例紹介
◎重度のうつ病経験を活かしカリスマカウンセラーに : 椎名雄一氏

前述した「(株)ふつうラボ」 の共同代表を務める椎名雄一氏は、20代のほとんどを、ベッドから起き上がれないほどのうつ病で苦しんでいた方です。塩素系漂白剤を一気飲みして自殺を図ったこともありました。

そして長い闘病生活の中で、メンタル不調の原因や発症のメカニズムを突き止め、従来の薬による対症療法とは異なる、新しいアプローチを見つけました。
さらに様々な心理療法や心理学を研究、自らがカウンセラーとなり、数多くのクライアントを元気にしてきた経験から、独自のメソッドを確立するに至りました。今では遠く海外から、カウンセリングを受けにやってくる人もいます。

他にも医療機関と連携したカウンセリングや、カウンセラーの育成、不登校・引きこもりの生徒のケアを含めた通信制高校の運営、企業へのうつ病対策の取り組みなど、「メンタル不調のない社会を目指す」 理念を基に幅広い活動を行っています。
自分にしかないマイナスの経験を 「むしろ、うつになって良かった!」  と言えるものに昇華することで、現在に結びついているんですね。

では、建築家である 「あなた」 に置き換えて考えてみましょう。

もし「あなた」が、過去に不登校や引きこもりの経験があったなら。
引きこもりがどんなに孤独で苦しいか、支える家族がどれだけ大変か、その両方をあなたは理解しています。
同じように不登校や引きこもりの問題を抱える家族が住宅の設計を依頼したいとき、これほど心強い存在はありません。経験した「あなた」にしかできない解決方法が、その家族への住宅の提案となるでしょう。

もし 「あなた」 が、元ヤンキーで家族に悲しい思いをさせた経験を持っていたとしたら。
なぜ非行に走ったのか、どんな思いだったのか、家族にはどう接してほしかったのか。
あなたが考える 「家族のあり方」 は、強い説得力を持つ提言として受け入れられるはずです。
同様の悩みを持つ家族にとっては、苦しい胸の内をわかってくれるよき理解者となり、代わりとなる建築家はいないのではないでしょうか。

あなたにはどんな経験がありますか?
自慢したい経験もずっと隠してきた経験も、その全てが「現在のあなた」を作っています。マイナスだと思い込んでいた経験をプラスに転化することができたら、きっとそこにはこれまでとは違うあなたが存在していることでしょう。

(牧野めぐみ)

【参考】
◎株式会社ふつうラボ
http://futsu.jp/ (別ウィンドウが開きます)
◎椎名ストレスケア研究所
http://ssc.la/ (別ウィンドウが開きます)